― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 今村 義孝
昔、昔。
一人の山伏(やまぶし)居(え)だけど。何時(えじ)だがの昼間時(じき)、一本松の木の下歩いて居たけど。ちょこっと見だば、その木の根っコさ小さな狸(たぬき)コ昼寝(ひるね)して居だけど。
気持ち良(え)さそうに寝てだ子狸(こっこだぬき)どご見だば、山伏急にいたじらして見だぁぐなって、腰(こし)ささげで居だホラ貝(がい)取って、子狸の耳のそばで、あるっだげ強(ちえ)ぐ吹え(ふい)だけど。
挿絵:福本隆男
子狸ぁどでんして、後ろも見ねぇで逃(に)げて行(え)ったけど。
「あや!面白でや。面白でや」
ど、山伏大き口あげで、逃げて行ぐ子狸とご(を)見で笑(わら)たけど。
そしてがら山道さドウドど入(ひや)って行(え)ったけど。
しばらく歩(あ)りて行ったば、急にお日様暮(く)れて、真暗(まっくれ)ぇぐなってしまったけど。
「あや!おがしごど。もう日暮れでしまったべが。どこがさ誰(だれ)がの家無(ね)ぇべぇがあ」
どて、あっちこっち見でみたば、遠ぐの方さチラチラど灯(あがり)コ見えで来たけど。
どこがの家だべがど、良ぐ良ぐ眼(まなぐ)開けで見だば、その灯コだんだん近づいて来たけど。
山伏、急えでそばの大き木さ登って、その灯コの様子(ようす)黙(だま)って見でだけど。
そしたば、それぁ葬式(そうしき)の行列(ぎょうれつ)だったけど。
近づいて来たば、泣き声やお経(きょう)の声高く聞こえで来たけど。
山伏どうなるんべと思って居たば、行列、山伏の登ってだ木の根っコでピタッと止(と)まって、みんなして穴(あな)コ掘(ほ)って、棺桶(かんおけ)置(お)えで行ったど。
山伏、木から降(お)りるべえどしたば、棺桶動えで、中がら白(しれ)え着物着た人ノソノソど這(は)い出して来て、山伏の登てる木さ登て来たけど。
山伏どでんして、上の方(ほ)さ登て行たけど。
したば死んだ人あ、
「山伏まだ居だんぎゃ(えたのかあ)、山伏そご居だぁぎゃ」
なんて、気味悪(きびわ)り声して、しゃべりながら登て来たけど。
山伏夢中(むちゅう)になって、細(ほそ)こえ枝(えだ)まで行ってしまったけど。んで、ドシンど地(つち)さ落じでしまったけど。
「あや、痛ぁでや。あや、痛ぁでや」
ど、叫(さけ)んだけど。
気付いでみたば、周囲(あたり)は未(ま)だ明り風(ふ)で、お日様かんかんど照(て)って居だぁけど。
山伏ボウとした顔(つら)して、腰なでながら山道歩りて行たけど。
こだえて、狸みだいなものにいだじらしぇ(すれ)ば、山伏みだぁえにだまされで、おっかなえ目さあうんだど。
五葉(ごよ)の松原(まつばら)、とっぴんぱらりのぷう。
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むかし、長崎県の山田というところに、十伝どんという男がおったと。その頃、やっぱり長崎の日見の峠に、いたずらな狐が棲んでいて、ときどき人をだましていた…
「山伏とこっこ狸」のみんなの声
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