民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 妖怪的な動物にまつわる昔話
  3. 一粒、千粒なあれ

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

ひとつぶ、せんつぶなあれ
『一粒、千粒なあれ』

― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
話者 長谷部 紀子
採集・再話 今村 泰子
整理 六渡 邦昭

 むがし、むがし。
 あるどころに、爺(じ)さと婆(ば)っば居てあったど。
 爺さ、庭掃いていだけ、一粒(ひとつぶ)の豆、拾ったど。その豆、
 「一粒の豆、千粒なあれ」
 ど言って、畑さ蒔(ま)いたど。したばムジナ来て、木の根っコさ腰かげて、
 「一粒の豆、一粒で居やがれ」
 ど言ったど。

 
一粒、千粒なあれ挿絵:福本隆男
 
 ムジナ、毎日畑さ来て口きくので、爺さ、なんとしても捕(とら)えねばならねぇ、ど思って、その木の根っコさ、鳥もちつけでおいだど。
 
 次の日、畑さ行って見たば、やっぱりどこがらがムジナ来て、え(い)つものように口きいだど。爺さ怒ったば、ムジナ逃げようとしたが、尻さ、鳥もちついで、逃げられねがったど。


 次の日、爺さ、婆っばさ、
 「晩のおかずさ、ムジナ汁作っておげ」
 ど、しゃべって、畑さ出て行ったど。
 婆っば、臼(うす)で米搗(こめつ)きしていだら、ムジナ、
 「縄、少しゆるめてけれ」
 ど、頼んだど。
 婆っば、
 「爺ささ 怒られるがらだめだ」
 ど言っだら、ムジナ、
 「少しでええがら、縄、ゆるめでけれ」
 ど、何回も頼んだど。
 とうとう婆っば、少しゆるめでやったば、今度(こんだ)ぁムジナ、
 「おれ、米搗いでやるがら、縄、解(と)いでけれ」
 ど、言ったど。
 婆っば、縄といでやったば、ムジナ、婆っばを杵(きね)でぶんなぐって殺してしまったど。
 ムジナ、婆っばをこんまく切って、婆っば汁つくって、婆っばさ化げて爺さを待っていだど。 

 
 晩げ、爺さ畑がら帰って来て、
 「婆っば、ムジナ汁出来だがぁ」
 ど言ったば、ムジナ、
 「あぁ出来てだ。早ぐ食ってけれ」
 ど、言ったど。
 爺さ、ムジナ汁食ったば、
 「なんだが、バカにしなしなと堅(かた)いな」
 ど、言ったど。
 したきゃ、屋根の上の烏(からす)、
 「しねぇのも無理ねぇ。ムジナ汁食うどで、婆っば汁食った。カァ、カァ」
 ど言って、啼(な)いだど。
 したきゃ、ムジナ、尻尾(おっぽ)出して、逃げてしまったど。 

 
 爺さ 泣いでえたどこさ、兎(うさぎ)来て、
 「爺さ、なにして泣いでいるなだ」
 ど聞いたば、爺さ、
 「ムジナ、婆っば殺してしまったァ」
と言ったど。兎、
 「よし、あれぁいつも悪りごとするがら、おれ、仇(あだ)取ってける」
 ど言って、ムジナどご、山に柴刈(しばか)りさ誘い出しだど。
 ふたりで柴かたかいで、兎、ムジナの後ろから柴背負(しょ)って来て、ムジナの背負ってる柴さ、火ィつけだど。
 ムジナ、大火傷(おおやけど)なって、死んでしまったど。

 とっぴんぱらりのぷう。 

「一粒、千粒なあれ」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

怖い

かちかち山(原作)でも狸が婆殺して婆汁作ってたので、モチーフは同じっすな( 40代 / 男性 )

感動

”他人に親切にするのもよいけれど、よく相手を見てからにしろ。恩を仇で返されて命まで取れれてしまうこともあるから。”と言うことでしょうか。カチカチ山は内容が強烈で記憶に残る話ですね。 このような話で先人達は、我々に諭してくれているのでしょうか。( 男性 )

怖い

カチカチ山とほぼ同じやけど、ばっばじるは無いわ。 怖すぎる。( 30代 / 男性 )

もっと表示する
楽しい

カチカチ山みたい。( 30代 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

大歳の亀(おおどしのかめ)

昔昔、あるところに貧乏な爺(じい)さんと婆(ばあ)さんがあった。ある年の暮に、正月用意もできないので、遠くの親類を頼(たよ)ることにしたと。

この昔話を聴く

かつお節の虫干し(かつおぶしのむしぼし)

むかし、豊後の国(ぶんごのくに)、大野郡(おおのぐん)野津町(のつまち)の野津市(のついち)というところに吉四六(きっちょむ)さんという面白い男がお…

この昔話を聴く

蛇きのこ(へびきのこ)

 むかし、青森県の八甲田山(はっこうださん)の麓(ふもと)にひとりの男が住んであった。  男が山裾(すそ)の道を歩いていたときのこと。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!