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やまのかみのおさん
『山の神のお産』

― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
採集 今村 泰子
整理 六渡 邦昭

 昔、羽後(うご)の国(くに)、今の秋田県の阿仁(あに)地方に、小玉 (こだま)の越中(えっちゅう)と杉(すぎ)の宮(みや)の清十(せいじゅう)ていう狩人(またぎ)の組(くみ)があったもんだと。
 小玉の越中は七人組で、杉の宮の清十の組は八人組であったけど。
 小玉の組は山の沢の入口に小屋掛けしていたし、杉の宮の組は同じ沢の奥の方で小屋掛けしていたったけど。
 ある年の旧の十二月十二日だっけどしゃ、日暮れ方にしゃ、小玉組の小屋さ腹(はら)に赤児(あかご)を宿(やど)した女子(おなご)訪ねて来たとしゃ。
 

 
山の神のお産挿絵:福本隆男
 「ここまで来てとうとう産気づいてしまったんだども、なんとか今夜一晩泊めてけれ、お願いする」
とて、言うのだっけど。
 見れば腹大っきいし、いつ産まれるもんだかしゃ。親方は、
 「とでもここだば、女子の来るところでねぇし、泊められねぇな」
とて、追い返したもんだとしゃ。


 したらば、この女子、なんともならねゃくて、沢の奥の杉の宮の組の方さ、トボトボて歩いて行ったとしゃ。して、小屋さ着いて、
 「産気づいてしまったんだども、今この沢の入口で小玉の組に断わられて来たとこだ。これより他(ほか)さだば行くところ無(ね)ゃんてから、なんとか今夜一晩泊めてけれ」
 て、言うのだと。 
 「男だって、女だって、こう暗(くれ)ぐなったばどこさも行かれるもんでねゃ。見れば腹も大きいしな、苦しいときは、人は皆お互いさまだ」
とて、杉の宮の組では心から親切に泊めたもんだと。

 したらばなんと、夜中になったば、産まれでくるようだ。
 「さあ、たいへんだ」
とて、産(う)み床(とこ)の敷物になるやわらかいもの探そうとしたけど何せ山の中だし、藁(わら)だのあるはずも無(ね)ゃし、皆柴敷いてしゃ、寝泊まりしていたくれぇだからよ。


 そこで、杉の宮の清十ていう人はしゃ、
 「山で一番やわらかだ木はみず木だ。みず木の柴取って来い」
 どて、若衆つかって、みず木の枝を集めらひだもんだと。それを敷いて、そこで赤児を産ませたもんだと。
 したばその女子、産みも産んだり、十二人も産んだと。
 一人産めば、その赤児の首すじつまんで、
 「これ、なにそれの神」
と言って、フゥと吹いて、フフゥフ―て飛ばしてやるもんだけど。

 また産めば、
 「これ、なにそれの神」
と言って、うなじつまんでフゥと吹くと、赤児はフフゥフ―て飛んで行くわけだ。
 そやって十二人産んだけど。

 
 次の朝、その女子は、
 「実はおれは山の神だ、お礼にお前(め)だちの組が山に入るたびに獲物をとらせてやる」
と言うて、ブ―ンて飛んで行ってしまったけど。
 杉の宮の組は獲物をどっさりとって帰ったけど、小玉の組は、そのあど、雪なだれにあって、みな死んでしまったど。

 それから山鳴りすれば、山の人達は「小玉鳴り」すると言うようになって、何仕事してたって、やめて帰るとよ。
 山さ行くときはしゃ、絶対七人組になって行くもんでねぇと言われている。小玉組と間違えられるからしゃ。
 またしゃ、みず木は、もとは青いもんだったどもな、山の神のお産するときの血で赤ぐなったと。


 山の神の子供は「かくら様」どいって、十二人、ひとりひとり何の神って名前あったども、忘れてしまったな。
 こんなことがあったから、暮の十二日は山の神のご縁日だとて、みなお祭りするもんだけど。

 どっとはらった。 

「山の神のお産」のみんなの声

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