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かっぱのはか
『カッパの墓』

― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 今村 泰子
整理・加筆 六渡 邦昭

 カッパの話か? あるな、このあたりにも。
 そこの雄物川(おものがわ)な、来るときに見たべ。秋田平野を二つに割って流れる秋田一の川だ。その川におるっちゅうな。カッパが。
 雄物川のカッパは、四月にまいたソバの茎(くき)がのびて赤くなる頃から、九月の末(すえ)花が真白に咲く頃までいると言われとる。その間に川泳ぎに行った子供がカッパにさらわれ、尻から肝(きも)を抜かれ、おらの友達も、かあいそうに何人か死んだ。

 だがな、カッパのなかにも冒険好きなやつがいて、ソバの花が終っても帰らないのがいたんだと。

 
 はじめのうちはすいすいと遊んでおったが、雪国のことだ、そのうち雪やあられが落ちはじめたと。
 カッパの頭には皿コがあって、カッパにとっては何より大切なものなんだと。その皿コにあられがカチンカチン当たる。カッパは今までぜんぜん知らん世界のことだもんで、何ぼかあわてたもんだべな。
 急いで川からあがり、あたりをきょろきょろ見まわしながら走りまわって、お寺の前の蓮沼を見つけて飛び込み、蓮の葉っぱの下にもぐり込んだと。そして葉っぱを笠(かさ)のかわりにして、ほっとしたと。
 だが、この葉っぱも寒くなるにつれ枯れてきて、破れて水の中に沈んでいったと。

 
カッパの墓挿絵:福本隆男

 「困ったなあ」
と、思案しているところを、お寺の和尚さんに見つけられたと。


 「おや、カッパコでねか。お前また何で皆と一緒に行かねかったんだ。大変なしくじりをしてしまったな」
と、声をかけられたが、カッパは、
 「人間に見つけられてはたまらない」
と思って、沼の中に、すいーっと潜(もぐ)っていったと。和尚さんは、
 「カッパコよ、おらなの何もおっかなくねえんだ。困ったら寺さ来い」
と言って、山門(さんもん)をくぐって行った。


 カッパはよほど気の強いやつだったかしてそのまま沼の中にいたわけだ。
 だが、ある日とうとう冬の前触れの大嵐が吹き、それとともに大きいあられが降ってきて、カッパの皿コをカツンカツンと叩きはじめたと。
 カッパはどこかに隠れ場所をさがそうと、あちこち走りまわるうち、皿コは傷つき、頭から血が流れてきた。痛いのと驚いたのと、何とも言いようのない恐(おそ)ろしさに川の方へ真っしぐらに走っていき、水の中に潜ったと。
 だが、皿コの傷はしみるし、痛むし、我慢できなくて、陸(おか)へあがったり水に潜(もぐ)ったり、何十遍もくりかえすうちに、とうとう陸へあがったまま動けなくなってしまったと。

 カッパは皿コの水が無くなれば力も何も無くなるために、自然に消えるように死んでいったと。その上に雪が降り積ったと。
 

 
 春になったある日、寺の和尚さんは、ミイラのようになって死んでいるカッパを見つけた。
 「おやっ、カッパコ。お前なんとしたべと思っていたら、死んでしまっていたのか。かあいそうに」
と言って、雄物川の見える山の上に墓を建て、
 「カッパコや、またソバの茎の赤くなる頃、お前の仲間たちが集まってくるべ。ここからながめておれな」
と話しかけて、ていねいに弔(とむら)いをしてやったと。

 それからというもの、この村ではカッパにさらわれたという話も聞かなくなったが、冒険好きのカッパの墓もどこにあるのか、今では知る人もいない。
 こうした話を聞かなくなって、さびしいことだな。

 これきってとっぴんぱらりのぷう。 

「カッパの墓」のみんなの声

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