― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 鮭延 瑞凰
整理・加筆 六渡 邦昭
昔、あったけど。
昔、ある村に親方衆(おやかたしゅう)の婆(ばば)がおったけど。
ある日、婆は、間もなく昼になるので畑で働いている家の者へ昼飯届けるかな、とて、大きな茶釜に湯を入れたのと、昼飯の入ったコダシを持って出掛けたど。
コダシというのは、縄であんだ袋のことだ。
途中まで行くど、
「ばば、ばば」
と、呼ぶ声したど。婆は、
「はて、誰だべが」
と、キョロ、キョロぐるりを見たども、誰も居ねっけど。
また歩き出すと、
「ばば、ばば、腰コ曲がってせつねぇでろ」
と、いう。
婆、また足止(あしと)めてぐるりを見たども、やっぱり誰も見えねぇ。婆は、
「何のこれしきのこと。なんともねえ」
と、強がり言って歩き出したど。
すると、十二、三の童子(わらし)が、ピョコンと出て、
「婆、せつねぇがろ。おれ持って行ってやるか」
と言って、童子ぁ昼飯の入ったコダシと湯の入った茶釜を持って、デンデン先へ行ってしまったけど。
「はて、どこの童子だべえ。見たこともねぇ童子だようだな。だども、あの童子、おれの家の畑覚えたべが」
とて、急に心配になって、腰コ曲げて大急ぎで登って行ったら、婆の家の畑はすぐ向うに見えたど。よく見ると、畑に茶釜、ドンと置かれてピカピカ光って見えたど。脇に昼飯の入ったコダシも置いてあったど。
「ああ良(え)がった」 と安心したけど。
婆が家さ戻って、足伸ばして休んでいたところへ嫁が肩で息して飛んで来た。
「婆、婆、今日の昼飯は竹の皮ばかりだ。茶釜は空っぽだし、どうした」
と言ったど。婆、ホウッと息して、
「やっぱりあの童子は、座敷童子だもんだったな」
と思ったど。
その晩のこと、婆が寝ると、ドシンドシンて音するけど。目えさまして見たら、いっつの間にか枕はずして寝てたど。
婆は、寝相の悪い誰かに枕とられたのだと思って、枕なおして、また寝たと。
少ししたらまた、ドシンと音がして、
「婆、枕やめて、手枕にせえ」
と、誰かが言うけど。
婆、眠ったふりして眼(まなぐ)小さく開けて見たど。したら、七つ、八つくらいの童子が五、六人枕を投げ合って遊んでいたんだど。
「これは座敷童子だな」
と思って、頭から布団をかぶって寝てたけど。
挿絵:福本隆男
次の朝ま、嫁は牛(べこ)を引いて草刈りに出掛けたど。
牛はヨダレをダラダラたらして、のったくり、のったくり、嫁の後について歩いてたど。
そしたら、
「嫁コや、お前草刈りに行くのか。んだら川さ行って牛を洗ってやれ」
と、誰かが言うけど。
嫁は「ハイ」と返事をしたまま、山の方へ登って行ったけど。
するとまた、どこかで、
「嫁、嫁、お前草刈りに行くのか。んだら川で牛洗ってやれ」
と言うけど。
嫁はまた「ハイ」と返事して、山の方さ登って行くと、目の前に突然、八つくらいの童子出て来て、
「お前、返事ばりだな。お前の家は牛が稼(かせ)ぐはんて、物持ちなんでえ。その牛洗わねぇこつだば、お前の身上潰(しんしょうつぶ)れてなくなるではあ」
と言ったど。
嫁は気持ち悪ぐなって、山を下りて川へ行って、牛をゴシゴシ洗ってやったけど。
座敷童子は普段は人に姿を見せねで、村の中でも金持の親方衆みてぇな家の奥座敷や、土蔵などに居るのだど。
座敷童子が出るようになると、その家の身上は、くだり坂だというけど。
とっぴんぱらり、さんしょの実。
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むかし、窪川(くぼかわ)の万六(まんろく)といえば、土佐のお城下から西では誰一人として知らぬ者はない程のどくれであったと。ある日、あるとき。旦那(だんな)が所用(しょよう)があって、高知(こうち)のお城下まで行くことになったそうな。
昔、あったと。鶉(うずら)と狸(たぬき)があったと。 あるとき、鶉と狸が道で出合ったと。鶉が、 「狸どん、狸どん。今日はお前に殿(との)さまの行列を見せてやろうと思うが、どうだ、井ぐいに化けないか」 と、狸にもちかけた。
「座敷わらし」のみんなの声
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