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やまのかみのむがし
『山の神のむがし』

― 山形県最上郡真室川町 ―
語り 井上 瑤
話者 佐藤 マスエ
再話 野村 敬子
整理 六渡 邦昭

 むがし、むがしな。
 むがし、あったじょ。山形県最上郡真室川町(やまがたけんもがみぐんまむろがわまち)の西郡(にしごおり)は山深い所にある里だけど。
 西郡衆(にしごおりしゅ)じゃ炭焼ぎの名人ばりでな。西郡じゅうの山の木なの、全部わ(自分)の庭ぐれに覚えでいたもんで。そごに、うんと山歩ぎの上手だ男いでだど。あるとき、なんたぐあいだがぼえっと道迷ったけど。


 「おかすんげ(妙な具合)だちゃな。こゆごとあっぺが(こういうこともあるだろうか)」
どて、うろうろどんしてるうちに夜間(よんま)になってすまった。困ってだらば、向こうの方さ灯(あがり)が見えてきた。
 
山の神のむがし挿絵:福本隆男


 「あそごの家で、夜の雨露(あめつゆ)ばりもしのぐべ。まず願ってみるべっちゃな」
て、行ったった。
 すっと、小屋こだと。小屋こさ囲炉裏(いろり)があって、その囲炉裏さ火がかんかんとおぎでるなだけ。ほんで、その男、
 「どうも不思議(ふしぎ)なごどで道迷ってすまた。どうが一夜の宿をさせでころちゃ」
ど、願ったった。

 そこさ爺(じい)が居でな。
 「ほう、そりゃあ、難儀(なんぎ)したべ。まず、あだれ、かんかんて火がおぎったさげ」
て、小屋さ入れでくったったどお。

 
山の神のむがし挿絵:福本隆男

 見れば、囲炉裏の中で、捕(と)ったばかりの雑魚(ざっここ)、串(くし)さ刺さってよ、ぐりーっと火の囲(まわ)りばとり巻(ま)いでだけど。その男、
 「なえだて、この魚こ、随分(ずいぶん)見応(みごた)えのあるごどな。こんげぇに、ぐりーっと火ばとり巻(ま)いで、何のごんだべ。まず、まず」
ど、不思議に思ったったべ。


 腹も減って、ぐうぐうじゅうし(というし)、うんと美味(うま)そださげ、爺が戸の口の処(ところ)さ、木っ端(こっぱ)でも拾いに出はったときに、この一匹喰(く)ってやるべど思で、その男、待ぢっだった。そしだら爺、
 「ほう、火コ弱ぐなっぢゃぁ、良ぐねな。木ば持って来るさげて、魚こば見ででくろやな」
ど、もさらもさら外さ出はってた。
ほらいまだ、どて、火の囲りぐりーっととり巻いている魚コのうぢ、真ん中へんの目立たねよだな一匹喰ってしまったった。して、爺だどしても見つからねべしって、知らね振りして、一本二本ずらしてな、火の尻(しり)でも突(つ)いでる振りして、かくらかくらど頭こ振ってだど。

 
 そこさ爺が戻ってきた。ジロッと見だけ、
 「兄まや、われ(お前)ま喰った魚なの、大(お)ん事(ごと)するぞ。あれはぁ、二十一の歳(とし)であった。せっかく俺が護(まも)ってだなに、罪深(つみぶか)い兄まだじゅ」
て、魚ば炙(あぶ)ってる。その男、
 「こんげにあるのに、一匹でもわがるながや。まずたまげだ」
て、ほんで、その火の側(そば)で一晩眠って、次の日やっとわ(自分)の炭焼ぎ小屋さ戻ったった。


 ほんで、次の朝ま村さ戻って来た。
 ほしたら庄屋(しょうや)の家の一人娘、昨夜(ゆんべ)死んで、これがら葬式(そうしき)だ。
 「お前も手伝いに出ななんねぞ」
て、向かいの家の嫁こ行ぐけど。
 その男、不思議でなんね。わの家さぶっ飛(と)んでった。そしだら、わの嫁(よめこ)も、
 「二十一の命であったど」
ていうど。その男は、
 「ほんならばあれは、山の神であったが。俺(おら)が喰った雑魚が、庄屋の娘だったが。まずたまげた」
て、それっきり寝込(ねこ)んですまたったど。


 山の神じゃ、人の生命綱ば握(にぎ)ってるもんだど。山さ入っても、山の神の木なの、あんまりちょす(いじる)もんでねど。
 
 どんべからっこ、ねけど。
 

「山の神のむがし」のみんなの声

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驚き

マナーを守らない人が山などに入ったらいいことは起きにくいと分かった。 山の神様の言うとうり‼︎( 20代 / 男性 )

驚き

『マナー』は重要だ。 山の神からの罰に『寛容』は無しッ!( 20代 / 男性 )

怖い

恐ろしい。( 50代 / 男性 )

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