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さるじぞう
『猿地蔵』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あったけど。
 むかし、あるところに爺さがおって、白い餅(もち)が大好きだったと。
 この爺さが川辺りの畑に畑仕事に行ったときのことだ。
 昼げに持って行った白い餅を、口のまわり真っ白にして食べて昼寝しとったと。
 そしたら、そこに、猿がたくさん来たと。
 「やぁや、こんな処に地蔵さまいたや。こんな処ではなく、川向うさ立てたらいいんでねか」
 「んだな」
 こういうと、猿たちは手車ちゅうもんを組んで、昼寝中の爺さをその上に乗せて、川の中を川向うへ運んで行ったと。
 


 川越え猿の尻(へんの)こ濡(ぬ)らすとも
 地蔵の尻こ濡らすな
 エンヤラ エンヤ

 川越え猿の尻こ濡らすとも
 地蔵の尻こ濡らすな
 エンヤラ エンヤ

 と、川を渡って川向うへ据(す)えたと。
 「やぁや、ええ地蔵さまだ」
 「銭コでも上げて拝(おが)むべや」
と、爺さ地蔵に、どこから持(も)って来たのか銭コどっさり上げて拝んだと。


 猿が居なくなってから、爺さ、その銭コ、
 「わしにお供(そな)えしたのじゃから、こりゃ、わしがもろぉてもええんじゃろ」
と、家に持って帰ったと。
 婆さと二人で、その銭コ拡(ひろ)げていると、そこへ隣りの欲張り婆さがやって来たと。
 「あれ、あれ、ここの家の爺さと婆さ、なしてこんげに銭コ儲(もうけ)けたや」
 「んだな、あれや、爺さが白い餅、口のまわり真っ白にして寝てたれば、猿たちが来て、地蔵さまどんだって、銭コ上げて拝んでったので、その銭コ貰(もら)ったなよ」
 
 これを聞いた欲張り婆さ、急いで家に戻ると、
 「爺さ、爺さ、白餅持って畑さかせぎに行け。ほして、口のまわりを白くして寝とれや」
とて、爺さが行くとも言わないのに、むりむり追いやったと。


 隣りの爺は、しかたなく畑へ行って、口のまわり真っ白くして昼寝しとったと。
 そしたら、猿たちが来たと。
 「あら、あら、こげなとこさ、まだ地蔵さまいたや。向うさ持って行くべ」
とて、手車組んで、
 
 川越え猿の尻こ濡らすとも
 地蔵の尻こ濡らすな
 エンヤラ エンヤ

 川越え猿の尻こ濡らすとも
 地蔵の尻こ濡らすな
 エンヤラ エンヤ

 と、川向うへ連れていったと。


 すると隣りの爺さ、その掛け声がおかしいやら、手車しとる猿の手の毛がくすぐったいやらで
 「へ、へ、へ、へ」
と笑ったと。そぉしたら、屁がプッと出たと。
 「あららら、これぁ、地蔵さまでねぇ。どこかの爺さだ。さぁさ大事(おおごと)した。早く、ぶん流してやれ!」
と、川にほうり投げたと。
 隣の爺さ、流されて銭コ儲けるどころでねえ。ようやっとのことで川から這(は)い上って来たと。

 どんべからんこ、ねっけど。

「猿地蔵」のみんなの声

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楽しい

とある方が面白いとおしゃっていたので読んだのですが何か記憶に残る作品だと思いました。( 女性 )

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