民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 良い行いで宝を授かる昔話
  3. 正月神様

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

しょうがつかみさま
『正月神様』

― 徳島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに爺さと婆さがおって正月神様がおかえりになる日に雨がドシャドシャ降ったと。
 爺さと婆さがお茶をのみながら、
 「この雨はやみそうにもないのう」
 「ほんに、正月神さんもなんぎされてござらっしゃるじゃろ」
と話しておったら、間がええちゅうか、そこへ七人の正月神様がかけこんで来たそうな。

 
 「爺さ、爺さ、笠(かさ)か蓑(みの)をかしてくれぬか」
というので、爺さと、婆さは家中(いえじゅう)をさがしたと。
 蓑と笠を四つみつけて、四人の神様にお着せもうしたが、残り三人には着せるものがないのだと。

 もいちどさがしたら、古いバンガサが二本見つかったと。二人の神様に差しあげたが、どうしても一人分たりない。
 そこで、一枚だけ残しておいた爺さが仕事をするときに着る合羽(かっぱ)を差しあげたそうな。
 七人の神様は、礼を言って雨の中をかえっていかれたと。
 爺さと婆さは、
 「まず今日は何よりも良いことをした」
と、こころほかほかして寝たそうな。 

 
 それからしばらく何の変わったこともなく、春夏秋冬ときて、また大晦日(おおみそか)をむかえたそうな。
 大つごもりの晩に、爺さと婆さが「年越しの用意も出来ぬし困ったわい」と話していると、外で話し声が聞こえて、また七人の正月神様が入って来られたそうな。そして、
 「爺さ、婆さ、せんだってはありがたかった。お礼にお前たちに福を授けに来た。何が欲しい」
という。爺さと婆さが、
 「わしんちはこんな貧乏な家じゃけ、年を越せんでこまっちょった。年を越せるだけの金と米があればええ」
とありがたがると、七人の正月神様は打ち出の小槌(こづち)をくれたそうな。そして、
 「この小槌を打てば、何でも好きなものを出せる」
といって出て行かれたと。 

 
 ところが、七人の神様のうち、一人の神様があとに残って、
 「爺さ、婆さ、まだ欲しいものがあるのではないか」
ときくのだと。
 その神様は、爺さの合羽を差し上げた神様だったそうな。
 爺さと婆さは
 「やや子が欲しい」
というたと。
 「それでは、明日の正月の朝がきたら"おめでとうございます"と二人があいさつさえすれば若返るから、それからややこをつくるがよい」
と言うたそうな。そうして、その神様も出て行かれたと。 

 
 元旦の朝になって、言われたとおりあいさつすると、たちまち二人は十七、八の若者とあねさんになったと。
 それから二人は、ややこも授かって、お米もお金も出して一生安楽に暮らしたそうな。

 むかしまっこう。

「正月神様」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

刀鍛冶秘法(かたなかじひほう)

とんとむかし、ある刀鍛冶のところへ、兼光(かねみつ)という若い男が弟子(でし)いりしたそうな。兼光はまじめに働(はたら)いて、師匠からも気にいられ、何年かすると師匠の向こう鎚(づち)を打つまでに上達したと。

この昔話を聴く

二百人の泥棒(にひゃくにんのどろぼう)

むかし、ある山の中に、二つの泥棒村があったと。上(かみ)の村には泥棒が百人、下(しも)の村にも泥棒が百人住んでおったと。あるとき、上の村の泥棒たちが…

この昔話を聴く

化狸と和尚(ばけだぬきとおしょう)

 むかしあったと。  あるところに人里離れた寺があったと。  来る和尚さまも、来る和尚さまも、みんな何かの化物にとって食われて、次の日には居なくなってしまう。  村では、和尚さまが居なくては法事も出来ん。困っておったと。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!