お婆さん怖い( 40代 / 男性 )
― 新潟県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 平辻 朝子
むかし、あるところに子供のおらん爺(じ)さまと婆(ば)さまがおった。
爺さまは、毎日山へ芝(しば)を刈(か)に出かけたと。
ある日のこと、いつものように山で芝を刈っていると、のどが乾(かわ)いた。
「ちょっくら谷へおりて、水でも飲(の)むか」
爺さまが、谷川の水を掌(て)ですくって飲もうとしたら、小っこいカニが一匹(いっぴき)、コソコソッと寄(よ)ってきた。
挿絵:福本隆男
「おおう、かわいげなカニだのう」
爺さまは、あんまりかわいいカニなので、家に持って帰り、庭(にわ)の池に放(はな)しておいた。
それからというもの、山から戻(もど)ると、必ず、
「カニ、コソコソ。爺だ、爺だ」
と声をかけた。するとカニは、爺さまの声がわかるのか、コソコソッと池の中から這(は)い出てくる。
爺さまが山からとってきたエサをやると、ハサミでちょこっとつかんで、また池の中に潜(もぐ)っていったと。
毎日がこんな調子だったから、面白(おもしろ)くないのは婆さまだ。
「爺さまは、カニにばかりにうめぇもん食わせて、おらには何にもくれん」
と、ぶつぶつ、ぶつぶつ、怒(おこ)ってばかりおった。
そんなある日、
爺さまが山へ行ったあと、婆さまはカニの池にやってきた。そして、爺さまの声をまねて
「カニ、コソコソ。爺だ、爺だ」
と言うた。
するとカニは、爺さまだと思うて、池の中から、コソコソッと這い出てきた。
婆さまは、おっかねぇ顔をして、
「このカニめが!」
と、カニをつかまえ、台所(だいどころ)に行ってゆでて食べてしもうた。
残(のこ)ったカニの甲羅(こうら)は、裏(うら)の畑にポーンとうっちゃっておいた。
晩方(ばんがた)、爺さまは山から帰ってきて、いつものように、
「カニ、コソコソ。爺だ、爺だ」
と呼(よ)ばったが、カニは出てこん。もう一度、
「カニ、コソコソ。爺だ、爺だ」
と言うたが、今度も出てこん。
「はてな。どうして出てこんのじゃろ」
と思いながら、家に入り、
「婆さま、婆さま。おらのカニ、知らねか」
と聞いたら、婆さま、
「カニなんか、なんで知るや」
という。
「本当に、知らんか」
「知らんもんは知らん」
するとカラスがバタバタッと柿(かき)の木にやって来て
〽カニの身は 婆さのハラ
〽甲羅は 裏の畑
というて啼(な)いた。
挿絵:福本隆男
爺さまがあわてて裏の畑へ行ってみると、カニの甲羅が捨ててあった。
「おらのカニ、婆さまに食われてしもうた」
というて、爺さまはせつなそうに泣いておったと。
いちがポーンとさけた。
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