昔話には、残酷な部分が垣間見られるがそれもこれも大自然と対峙する苛酷な生活の一面なのだろうな。 化けた狸に容赦しない婆さを見て、怖くなった現代の還暦爺さより。( 60代 / 男性 )
― 新潟県岩船郡 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
とんと昔があった。
昔あるところに、爺(じ)さと婆(ば)さが暮らしていたと。
ある日、爺さが、
「婆さ、婆さ、おらは町へ行って来るから、弁当をつくってくれ」
というて、婆さに弁当を作ってもらったと。出しなに、
「今日は用事がたんとあるから、遅くなるかも知れん」
と、いいおいて町へ出かけたと。
挿絵:福本隆男
ところが、いつも村人をだましては困らせている狸(たぬき)がこれを聞いていた。そして、
「ようし、今日は、ここの婆さだましてやろう」
と、ほくそえんだと。
晩方(ばんがた)になって、爺さが町から帰って来た。
「婆さ、婆さ、今戻った」
「はぇ、ご苦労でござんした」
婆さが迎えに出て、ヒョイと爺さを見たら、どうもいつもの爺さと様子がちがう。
よくよく見たら、爺さの左目っこが右目っこになっていて逆だ。
家の爺さは、左の目を痛(いた)めてつぶれてしまい、左目っこだったと。婆さは、
「ははあん、これは狸だな、さあて、どうしてくれよう」
と知らんふりして、考えた。
晩飯を食べると、爺さはイロリの側(そば)でお茶を飲んでいたが、やがて、
「今日は町へ行って、疲(つか)れた。どれ眠(ねむ)ろうか」
というた。婆さ、
「爺さ、爺さ、いつもの通り、袋の中へ入って寝(ね)るかい」
と聞くと、爺さは、
「おう、そうともさ」
と、答えた。
そこで婆さは、人が入るほどの大きな袋を持って来たと。爺さは、その中に入って、寝転(ねころ)んだ。
「爺さ、爺さ、、いつもの通り、この袋の口をしばろうかい」
「おう、そうともさ」
婆さは、袋の口をしっかりしばった。
「爺さ、爺さ、いつもの通り、この袋を天井のはりにぶらさげようかい」
「おう、そうともさ」
婆さは、袋を、はりにぶらさげた。
「爺さ、爺さ、いつもの通り、棒(ぼう)でたたこうかい」
「おう、そうともさ」
挿絵:福本隆男
婆さは、始めのうちはそろそろと叩(たた)いていたが、だんだん強く叩いていった。
「婆さ、婆さ、痛いが痛いが、そろりそろりと叩いてくれや」
「爺さ、爺さ、何いうているがだい。おらはいつもの通り叩いているがだ。このくらいが一番良いというていたくせに」
「おう、そうともさ」
婆さは、力まかせに叩きに叩いた。
「痛い、痛い、これじゃおらが死んでしまうが」
「何が痛い、この化け狸め。おらをだまして爺さに化けて来てからに。叩き殺(ころ)してやるから、そう思え」
狸は、とうとう婆さに叩き殺されて、元の狸の姿になったと。
そのうちに、本当の爺さが帰って来た。婆さは狸退治(たぬきたいじ)の話をして、二人で狸汁(たぬきじる)をこしらえて食べたと。
いきがさけた、どっぴん。
昔話には、残酷な部分が垣間見られるがそれもこれも大自然と対峙する苛酷な生活の一面なのだろうな。 化けた狸に容赦しない婆さを見て、怖くなった現代の還暦爺さより。( 60代 / 男性 )
昔、昔。一人の山伏(やまぶし)居(え)だけど。何時(えじ)だがの昼間時(じき)、一本松の木の下歩いて居たけど。ちょこっと見だば、その木の根っコさ小さな狸(たぬき)コ昼寝(ひるね)して居だけど。
「めっこ狸」のみんなの声
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