早業比べの競争はどきどきした( 50代 / 男性 )
― 熊本県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに長者どんがおらして、日本一仕事の早い者を雇(やと)う、というて、お触(ふ)れを出したと。
そしたら四人集まって来たと。いろいろ早業競(はやわざくら)べをして、三人残った。
一人は、十本の梅の木から一遍(いっぺん)に梅の実を叩き落として、それが地に落ちきらんうちに全部受け取ってしまったと。長者どんが、
「見事、見事」
と喜んどったら、次の男は長者どんに、
「いやいや、そんくらいのことで驚(おどろ)いていてはいけません。だいいち、梅の実の雄梅(おうめ)と雌梅(めうめ)とを撰(よ)り分けてもおらんざった」
というたと。長者どん、
「ほう、梅の実に雄(おす)と雌(めす)があるとは、今知った。それでは主(ぬし)や、どういう早業を見せてくれるんかの」
と聞いたら、
「蚤(のみ)を一升(いっしょう)ばかり集めて下され」
と頼んだと。
長者どん、村人を大勢動かして一升桝(いっしょうます)一杯の蚤を集めさせたと。そして、
「さあ、これをどうしてくれるな」
と聞いたら、二番目の男はいきなり一升桝をひっくり返したと。
さあたいへん。蚤は、かってきままに跳びはねた。長者どんをはじめ、みなみな、
「うひゃあ」
と逃げ散った。男は、そばに居た女子(おなご)の髪の毛二、三本抜くと、跳びはねる蚤を片っぱしから捕えて、髪の毛で一匹、一匹の鼻ぐりに通して、蚤の輪を作ってしまったと。
それが目にもとまらん早業だったと。長者どん、
「いやたまげた。こりゃたまげた」
というたら、見物の衆もびっくりして拍手、拍手だと。
三人目の男がこの様子を見て、長者どんに、
「いやいや、そんくらいで驚いていてはいけません。今のはだいいち、蚤の雄と雌とを撰り分けてもおらんざった」
というたと。長者どん、
「ほう、そんなら主や、何を見せてくれるか」
と聞いた。
ちょうどそのとき、長者どんの屋敷(やしき)の屋根普請(やねぶしん)に来ていた者がひとり、高い屋根から足を踏みすべらせて、下へ落ちかかったと。
それを見た三人目の男は、さっと裏山にかけ込んで竹を伐(き)り、その竹で背負(しょい)こを作り、次に馬小屋に飛び込んで藁束(わらたば)を取って来て背負この中に敷き、その中に屋根から落ちて来た男を、地上三尺のところで受け止めたと。
長者どんはじめ、みなみな、ほっとするやら喜ぶやら、たまげるやら、
「ウオ-」
と叫んで誉(ほ)めたたえたと。
三人が三人とも、どれもこれもこんな早業だったから、長者どん雇うの止(や)めて客人(きゃくじん)としてもてなしたと。
そりばっかりの ばくりゅうどん。
早業比べの競争はどきどきした( 50代 / 男性 )
むかし、むかし、ある山里に貧乏なお寺があって、和尚(おしょう)さんが一人住んであった。 その寺へ、毎晩のように狸(たぬき)が遊びに来て、すっかり和尚さんになついていたと。
むかし、あるところに大層縁起かつぎの長者がおったと。 ある年の正月、村の和尚さんが正月膳に招ばれて長者の家に行ったと。 たくさんのご馳走だ。和尚さんはおれも食べこれも食べして大いに満腹したと。
「早業競べ」のみんなの声
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