― 高知県 ―
語り 平辻 朝子
再話 市原 麟一郎
再々話 六渡 邦昭
昔 あるところに漁師達(りょうしたち)がおった。
あるとろりとした凪(なぎ)の日に、沖で漁(りょう)をしておったと。
そうしたら、はるか沖に白い帆(ほ)を張(は)った一艘(いっそう)の舟があらわれて、それが、風も無(な)いのに帆をはらませて、矢のように疾駆(はし)ってきたそうな。
挿絵:福本隆男
「お、何んじゃ、あの船は」
「こっちへ向かって来るぞ」
その速いこと、速いこと。このままだとこの舟が真二つにされて、皆海に放り出されてしまう。
「危ない、無茶(むちゃ)をするな」
「向こう いけぇ」
と、口々に叫んだ。
が、その船はみるみる近づいて、こっちに乗り上げる勢(いきお)いだ。舵(かじ)を切る間もない。
「うひゃあ、もう駄目だあ」
漁師達は、とっさに身を伏せて、頭をかかえた。
さあ来るぞ、いま来るぞと覚悟(かくご)をしたと。が、ぶつかる衝撃(しょうげき)がこない。何事もない。それっきりだと。
挿絵:福本隆男
おそるおそる頭をあげてみると、さっきの怪しい船はどこへ消えたか、影(かげ)も形もない。
「船幽霊(ふなゆうれい)じゃあ」
「そうじゃ、そうにちげぇねぇ」
「縁起(えんぎ)でもねえ」
漁師達は漁をやめて引き上げることにしたと。
船を陸(おか)へ向けて必死にこいでいたら、突然(とつぜん)大きな岩が目の前にあらわれた。
「あ、危ねえ」
というても、もう遅い。思わず目をつむった。
が、何もおこらん。目をあけたら岩は消えていたと。
これも海の怪異(かいい)と気がついて、漁師達はほうほうのていで浜へ逃げ帰ったと。
海の怪異に出合ったとき、心得た漁師は、わざと、
「いわしじゃあ、いわしが来たぞぉ」
いうて叫ぶんだと。すると、たちまち海面がざわついて、そこら一面、いわしの大群がやってきたようなありさまになるそうな。
海には、船幽霊やら、みさき、海坊主(うみぼうず)と、いろんな怪異な現象(げんしょう)が多いものだと。
昔まっこう 猿まっこう。
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昔、あるところに、貧乏な爺さと婆さがおったと。年の暮れになれば、年とり米も年とり魚もかわねばならんので、爺さは毎年山へ行っては門松(かどまつ)を取って来て、それを町へ持って行って、売り歩いておったと。
むかし、土佐(とさ)の窪川(くぼかわ)に万六という男がおった。地主の旦那(だんな)の家で働く作男(さくおとこ)だったが、お城(じょう)下から西では誰(だれ)ひとり知らぬ者がないほどのどくれであったと。
「海の怪異」のみんなの声
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