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くめしちのようじゅつ
『久米七の妖術』

― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 市原 麟一郎

 とんとむかし、土佐(とさ)の窪川(くぼかわ)の藤(ふじ)の川に、久米七(くめしち)という男がおったそうな。土佐の人ではなく、肥後(ひご)の生まれとか、また、久米(くるめ)の仙人(せんにん)の生まれかわりとか言われたりして、その正体ははっきりせざったと。
 とにかく、ある日ぶらりとやってくると、ここに住みついて、ぶらり、ぶらりと暮(く)らしておったそうな。

 
 ある朝、久米七が囲炉裏端(いろりばた)で一杯(いっぱい)やっていると、興津(こうず)から魚売りがやってきた。
 「そのなかの鰹(かつお)を一本、ただでくれんかよ」
 こう久米七がいうと、魚売りは、
 「いかん、いかん。こりゃ売りもんじゃき、やれるか」
と、すげなく答えたそうな。
 「そうか。どうしてもいかんかよ」
 久米七は、こう言いながら、かたわらのうちわをとって招(まね)くようにあおぐと、たちまち前の畑は一面の海になり、みるまに庭のかづら石まで波が押(お)し寄(よ)せてきたと。
 すると、カゴの中の魚はピョンピョン飛び出て、海のなかへ潜(もぐ)って一匹(ぴき)も見えなくなってしもうた。


 これを見て青くなった魚売りは、
 「久米七さんよ、なんとかならんかよ」
と、泣きそうになって頼(たの)んだ。久米七は、
 「ひとつくれたら、元のとおりにしちゃるが、それでええかや」
と念をおした。魚売りは、もう一も二もなく、
 「ええとも、ええとも、お願いします」
と、うなずいたと。

 すると久米七は、またうちわをとって、向こうむきにあおぐと、さあっと潮(しお)がひいて、魚はピョンピョン、カゴのなかへ返ってきた。
 久米七は、約束どおり鰹を一本もらうと、夕方まで酒をチビリチビリ楽しんだそうな。


 いつの頃(ころ)の話か、はっきりはしないが、窪川には妖術(ようじゅつ)つかいの久米七の面白い話がほかにも残っている。
 
 むかしまっこう さるまっこう
 さるのつべはぎんがりこ。

「久米七の妖術」のみんなの声

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ほんとうに久米七みたいな人が存在するのでしょうか?!( 10歳未満 / 男性 )

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