― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 市原 麟一郎
整理・加筆 六渡 邦昭
とんとむかし、たいそう男の子が好きな夫婦がおったそうな。暇(ひま)さえあったら生まれてくる子供の名前を考えておったと。
さて一人目の子供、これが男だったので、あんまり嬉(うれ)しゅう嬉しゅうて、つい、“うれしい”という名前をつけた。
そうして二、三年たって、また男の子が生まれた。
さっそく親戚(しんせき)をあつめて、喜(よろこ)べ喜べ、のドンチャン騒(さわ)ぎ。
騒ぎがおわって家族だけになったら、頭のなかには、喜べ喜べというかけ声だけが残っていて、その子の名前を“よろこべ”としたと。
願いどおりに男の子が生まれるものだから、
「この次も男の子じゃろ」
と、今度はあらかじめ名前を決めることにして、いろいろ考えて百ちかい名前が出来たそうな。ところが、あんまり案(あん)がありすぎて、「これがええ」っちゅうのがないのだと。
「困った」「困った」
ゆうとる内に、三番目の男の子が生まれたと。
そしたら、あくる日、近所の人が、引越しのあいさつに来て、
「今までどおり、たのしい暮らしをして下さい」
ゆうて帰って行った。
夫婦は顔を見合せて、
「そうじゃ、たのしい暮らしをするには、やっぱり“たのしい”という名前の子供も必要じゃ」
ゆうて、その子の名前を“たのしい”とつけたと。
長男の“うれしい”
次男の“よろこべ”
三男の“たのしい”
この三人の子供はなかなかの親孝行(こうこう)で、近所でも評判(ひょうばん)のよい兄弟に育ったそうな。
ある日のこと。
次男と三男が畑仕事に出掛(でか)けて、長男と父親が家でワラ仕事をしていたと。
そしたら、父親が突然「ウーン」とうなってドタっと倒れると、そのまま死んでしもうたと。
長男の“うれしい”は弟たちに知らせようと畑へ走っていって、大きな声で、
「“よろこべ”、“たのしい”、親父(おやじ)が死んだぞ」
とゆうたら、向こうから、
「“うれしい”、まっことかぁ」
と、ゆうて返してきたそうな。
むかしまっこう さるまっこう
さるのつべは ぎんがりこ。
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昔、あるお寺に和尚さんと小僧さんがおったと。 和尚さんは毎晩餅(もち)を囲炉裏(いろり)で焼いて食べるけんど、小僧さんにゃ、ちっともやらんので、小僧さんは、どうにかして餅を食べる工夫はないもんかと思案しちょったそうな。
「めでたい名前」のみんなの声
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