― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに、年をとった夫婦と十八歳になる娘が住んでいた。
そこへ、どこからか、乞食(こじき)の爺(じい)さまがやって来た。気立(きだて)のやさしい娘は、爺さまを見ると、すぐに出て行って食べ物をあげた。
挿絵:福本隆男
すると爺さまは、娘をじいっと見つめ、悲しい顔をして、
「やさしい娘さんだが、お前さんは八月二十四日に急の病(やまい)で死ぬ寿命(じゅみょう)のようだ」
と、ぼそぼそとしゃべった。そうしたら、家の中でそれを聞いていた父親が、あわてて飛び出してきて、
「どうすれば娘の寿命を延(の)ばすことが出来るのか、教えて下さい」
と、爺さまに尋(たず)ねた。
父親が一所懸命(いっしょけんめい)に頼んだので、爺さまは、
「八月二十四日の三日前の朝、娘に目隠(めかく)しをして、酒三本とさかずきを三つ持たせ、東の方へどこまでも歩かせて行きなさい。前へ進めなくなったところで目隠しを取ると、高い岩の上に三人の坊さまがいるから、ものを言わずに酒をついでやり、酒が無くなった時に命乞い(いのちごい)をすればよい」
と、教えてくれた。
爺さまは、そのままスタスタと行ってしもうた。
八月二十四日の三日前の朝、爺さまにいわれた通り、娘が東の方へ歩いて行くと、どうしても前へ進めないところがあった。そこで目隠しをとると、確かに、高い岩の上に三人の坊さまが座っていた。
左端の坊さまは帳面(ちょうめん)を持って何やら読みあげている。真ん中の坊さまは、それを聞いてそろばんをはじいている。右端の坊さまは、真ん中の坊さまのいう事を書きとめている。
どうやら、真ん中の坊さまが一番えらそうだった。
娘は三人の坊さまのそばへ行くと、さかずきを渡し、酒をなみなみとついで飲ませた。
そのうちに酒がなくなったので、
「坊さま、私は乞食の爺さまから八月二十四日に死ぬといわれました。どうか、もっと生きられるようにして下され」
と頼んだ。
そうしたら、真ん中の坊さまは、
「これ娘、人にはな、寿命というて、生まれた時にはもう死ぬ年が決められているのじゃあ。いくらわしたちが寿命を決めているとはいえ、お前にだけ決まりを破(やぶ)ってやるわけにはいかん」
というた。右と左の坊さまも、うんうんうなずいている。
「分ります、分ります。でも、そこを何とか坊さまの力で、お願いします」
娘は泣き泣き頼んだ。
真ん中の坊さまがまた口を開いた。
「きまりはきまりだが、乞食の爺さまはわしたちの仲間(なかま)だし、その仲間がお前に寿命を教えたというのは、お前がきっとやさしい娘だからだろうし、わしらの好きな酒を、たあんとごちそうしてくれたのだから、これは何とかしなければなるまいなあ」
左の坊さまが帳面を見ると、いかにも、娘の寿命は八月二十四日でつきている。
右の坊さまが、
「お前はいくつになる」
と聞いたので、娘は、
「十八です」
と答えた。真ん中の坊さまは、
「よし、それなら、帳面に八を加(くわ)えてやろう」
と言って、寿命を延ばしてくれた。
その娘は、八十八歳まで生きていたということだ。
どんとはらい。
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むかし、ある寺にとんち名人の一休さんという小僧がおった。 この一休さんには、物識り和尚さんもたじたじさせられておったと。 「一遍でもええから、一休をへこませてやりたいもんじゃ」 つねづねそう思っていた和尚さん、ある晩いい考えが浮かんだ。
「寿命のばし」のみんなの声
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