民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 伝説にまつわる昔話
  3. 嫁礁

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

よめぐり
『嫁礁』

― 石川県珠洲郡 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 能登半島(のとはんとう)一番先っぽに狼煙(のろし)という所があるがの、この狼煙の沖に暗礁(あんしょう)がありますだ。海岸から四里(よんり)ばかりもありまするが、ひき潮どきには岩が顔を出すんですじゃ。
 この暗礁にまつわる話で、こんなのがありまする。
 昔、狼煙に一人の漁師がありました。
 漁師は毎晩、雨もいとわずに、その暗礁まで船を出して、夜のサバ釣りをしていましたがの。そして、もうけたお金で嫁さにうまいものを食べさせて喜んでおりましたじゃ。
 ところが、ひどい嵐の夜も、決して休まなかったので、そのことが、かえって嫁さに疑(うたが)いを持たせることになりましたんじゃ。夫に誰かいい女ごでも出来たのではないか、思うたんですな。 

 
 それで、嫁さは毎晩のように、
 「おらも、連れてって呉(く)れ」
とせがむのですがの、漁師は、
 「女郎(めろう)の行くとこじゃ、ないてや」
と、ことわるのですじゃ。
 こうなると、嫁さはますます深う疑(うたぐ)うばかりで、とうとうある晩、船の中へ身を隠(かく)して、夫が船を出すのを待っていたんと。
 漁師はそれと知らずに、船を出したわけですわ。
 間もなく、いつもの暗礁に船をつけると、漁師は釣ナワを手にするために、身をかがめましたのじゃ。

 するとそのとき、かくれていた嫁さが、ヒョッコリ立ちあがって、
 「あんた」
と、夫に声をかけなさった。


 ところが、あんまりだしぬけだったから、漁師は、てっきり化け物だと思いこんだんですな。すばやく、出刃包丁(でばぼうちょう)をとりあげて、嫁さを差し殺してしまいましたのじゃ。
 それから、急いで家へ帰りましたがの、嫁さがおりませなんだ。
 「さては、あいつがそうやったか」

 気のついたときは、もうあとのまつり。
 漁師は、大切なかわいい嫁さを殺したのがもとで、気ちがいになりましたんじゃ。
 そして、あげくのはては、同じ暗礁の、近くの海中に身を投げてしまいなすった。
 今でも、この暗礁を嫁礁(よめぐり)と言っておりまする。

 それきりちょ。

「嫁礁」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

不知火の松(しらぬいのまつ)

むかし、神奈川県(かながわけん)の大師河原(だいしがわら)というところに、お父と娘の二人暮(く)らしの漁師(りょうし)が住んでおった。お父は毎朝、木…

この昔話を聴く

河童の雨乞い(かっぱのあまごい)

昔、ある村を流れる川に河童が住んでいたと。河童は子供や馬を川の中へ引きこんだり、畑を荒らしまわったり、悪さばかりしておった。ある日の夕方、村の和尚さ…

この昔話を聴く

ずいとん坊(ずいとんぼう)

むかし、あるところに山寺があって、随頓(ずいとん)という和尚さんがおったそうな。その和尚さんのところへ、毎晩のように狸が通って来て、和尚さんが寝よう…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!