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のとのこいじはこいのみち
『能登の恋路は恋の路』

― 石川県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
再々話 六渡 邦昭

 むかし。
 能登(のと)の国、石川県の能登半島のある村に、鍋乃(なべの)という娘がいた。気立てがよいうえに美しい鍋乃は、村の若者のあこがれの的であった。
 あるとき鍋乃は海に出て、岩場でサザエをとっているうちに、足をすべらせてしまった。
 「だれか―、助けてくだされ―」
 たまたま近くで釣をしていた隣り村の助三郎はその声を聞きつけ、海に飛び込んで鍋乃を浜へ助けあげた。
 「娘さん大丈夫か」
 何度も声を掛けると鍋乃はやっと気をとりもどした。そして、助三郎の逞(たくま)しさをまぶしく思った。助三郎も鍋乃の美しさにひかれた。 

 
 それから間もなく、二人は人目を忍(しの)んで逢うようになった。
 助三郎の村と鍋乃の村は岬の向こう側とこちら側にあり、村と村を継ぐ道は、山越えの遠道になっている。それで助三郎は、毎夜、近道の波打ちぎわの岩の多い場所を伝って鍋乃の村へやってきた。
 浜辺ではいつも、鍋乃が目印のかがり火をたいて待っていた。
 「もう少し待ってくろ。そのうちに必ずお前を嫁にする」
 「きっとよ。おら、それまで待っている」
と言い交しながら、二人は逢瀬(おうせ)を重ねていた。
 ところで、鍋乃の村には、源次(げんじ)という若者がいた。この源次も、美しい鍋乃を恋しく思う一人だった。
 源次は鍋乃が毎夜、隣村の助三郎と逢っているという噂(うわさ)を聞き、
 「ちくしょう、助三郎めが」
と、くやしがっていた。


 ある夜、源次が鍋乃の後をつけて行くと、鍋乃は浜に出てかがり火を焚いていた。しばらくすると磯(いそ)の岩場伝いに助三郎がやってきた。
 二人の仲むつまじい姿をみてしまった源次は、
 『助三郎さえいなければ』
 という気持が段々強くなっていった。
 「まてよ、あのかがり火だ。かがり火を使おう」
 源次の頭の中には、助三郎を殺してしまおうという思いが渦巻(うずま)いた。 
 
 ある夜、助三郎はいつものように磯の岩場を歩いていた。あたりは暗い。
 その時、遠くでパッとかがり火が灯(とも)った。
 「あっ、鍋乃の灯(ひ)だ」
 助三郎は灯(あかり)をめざして急いだ。
 「あと少しで鍋乃に会える」
 そう思ったとき、ふいに灯が消えた。


 「鍋乃ぉ、灯をつけてくれぇ」
と叫んだが返事はない。
 実は、そのかがり火は源次が切り立った岩場の上で焚いたものだった。
 助三郎が、おかしいと気がついた時には既に遅かった。危険な岩場に誘い込まれていたのだった。
 ふいに波に足をすくわれ、激しい波がおもいっきり身体を岩にたたきつけた。ウッとうめいて意識を失った助三郎は、やがて海の底に引きずり込まれて行った。

 そんなこととは知らない鍋乃は、浜でかがり火を焚き助三郎を待っていた。
 が、助三郎はついに来なかった。初めてのことだった。
 夜が白々と明けるころ、そのまま待ち続けた鍋乃の見たのは浜に打ちあげられた助三郎の亡骸(なきがら)だった。
 鍋乃はあまりの出来事に唯々泣き暮れた。
 鍋乃が、「助三郎さぁん」と呼びながら海に消えて行ったのは、それから間もなくだった。


 村人たちは若い二人の死を哀れみ、二人の恋の道であったこの浜を"恋路"と呼ぶようになった。
 石川県珠洲郡(すずぐん)の恋路海岸(こいじかいがん)には、今、二人の仲むつまじい記念碑が建っている。
 能登半島へ行ったら見てくるといいよ。

「能登の恋路は恋の路」のみんなの声

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