岩手県の話しだとは知らなかったです( 40代 / 女性 )
― 群馬県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに貧乏(びんぼう)な爺(じ)さと婆(ば)さがいてあったと。
年越(としこ)しの前の日に爺さは、山から松の枝を取ってきて、
「婆さ、これを売って帰りにゃミカンとイワシを買うてくるで」
というて、町へ売りに行ったと。
吹雪(ふぶ)いているなかを蓑(みの)と笠(かさ)を身につけた爺さが、
「まつー、まつー」
と呼んでみたが、あまり大雪なので戸を開ける家がない。夕方になってもひとつとて売れなかった。
爺さはあきらめて帰ることにしたと。
帰り途中(とちゅう)で、道端(みちばた)のお地蔵様(じぞうさま)が雪にうずもれて立っているのに気がついた。
爺さはかわいそうに思うて、その雪を払い落として、自分がまとっていた蓑(みの)と笠(かさ)を着せかけて、
「寒いだろうが、今少しの辛棒(しんぼう)だで」
というて、家に帰ったと。
婆さに、
「だめだった」
とがっかりしていうたら、婆さは
「そんでは私が織った白木綿(しろもめん)の布(ぬの)があるから、あれを売ったらどうですか」
というた。
次の朝、爺さは婆さの織った白木綿の布を持って、町へ売りに出掛けたと。
ところが、しばらくして爺さは手ぶらで帰ってきた。婆さが
「あれ、ずいぶん早かったね」
と尋ねると、爺さは、
「ああ、いや、町まで行かなかった。途中で昨日のお地蔵様が蓑と笠だけでふるえていらっしゃるから、それだけでは寒かろうと思うて、婆さの白木綿を体中に巻(ま)きつけてやった」
とすまなそうにいう。
「そうかえ、正月迎えの用意(ようい)が出来なくても、お正月さまはどんな貧乏(びんぼう)たれの所へもくるから」
となぐさめて、温(ぬく)い粟粥(あわがゆ)食べて寝(ね)たと。
すると、真夜中(まよなか)ごろに、どこからともなく
〽 じぞう かねダニ よいとこしょ
〽 爺さが家どこへ よいとこしょ
と歌うのが聞こえてきた。
その声がだんだん近づいて来て、爺さの家の前まで来ると、
「爺さいたか、いたか、あんまり寒いから開けとくれ」
というのだと。
爺さが起きて戸を開けると、戸の前にお地蔵様が凍(こお)って横になっていた。
爺さと婆さが二人してお地蔵様の頭と足とを持ち、囲炉裏端(いろりばた)へ寝かせて、火をどんどこどんどこ燃(も)して温めてあげたと。
氷が解(と)けてくると、お地蔵様のからだから
ピシッ ジャラン ピシッ ジャラン
と音がした。
爺さと婆さが、その氷の解ける音を聞きながら、火に温もっていたら、いつの間にか二人とも眠(ねむ)ってしもうた。
朝間(あさま)になって目を覚(さ)ましたら、お地蔵様の姿はなかった。
そのかわり、その型どおりに、ぴかぴか光る小判が山と積まさってあった。
貧乏だった爺さと婆さは、大層(たいそう)お金持ちになり、一生安楽(いっしょうあんらく)に暮(く)らしたと。
いちがさかえた。
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「笠地蔵」のみんなの声
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