民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 伝説にまつわる昔話
  3. 榛名湖の腰元蟹

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

はるなこのこしもとがに
『榛名湖の腰元蟹』

― 群馬県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、上野(こうずけ)の国、今の群馬県(ぐんまけん)の榛名山(はるなさん)のふもとに立派(りっぱ)な館(やかた)があった。
 館にはひとりの可愛らしい姫がいて真綿(まわた)でくるまれるように大切に育てられていたと。
 この姫はまだ小(こ)んまいときから榛名山を眺(なが)めるのが大好きだったと。朝には朝焼け、夕(ゆうべ)には夕焼け、日昏(ひぐ)れては墨絵(すみえ)のような山影を眺めていつまでも動こうとせんのだと。 
 年頃になってからは一層(いっそう)山を眺めては物思いにふけり、ときには涙ぐみさえするようになったと。
 館の主(あるじ)は、そんな姫を見るたび心をいため、よい夫(おっと)がいたならあるいは、と思うていろいろ縁組(えんぐみ)の話を持ちかけるけど、姫はそんな話には振り向きもせん。それどころか、


 「榛名湖(はるなこ)に映(うつ)る榛名山は、とても美しいと聞きました。いちど湖に行ってみたい」
というた。それからは明けても暮れても、
 「榛名湖へ行きたい。榛名湖へ行かせて」
というようになったと。
 館の主は、とうとう姫を榛名湖へ行かせることにしたと。
 立派な駕籠(かご)が用意され、お供の腰元(こしもと)たちも選ばれた。そしてある日、花咲く山道を姫の一行(いっこう)は登っていったと。
 やがて、湖のほとりへ着いた。
 駕籠からおりた姫は、静かに山を仰(あお)ぎ、湖に映(は)える榛名山を見つめていたと。しばらくそうしていたが、そのうち岸辺(きしべ)に下りていって、そのまま水の中へ入って行ったと。
 それがあまりにさりげなかったので、お供の者たちはどうすることも出来なかった。


 姫は、みんなの前で湖の底深く沈んでしまったと。
 突然、ごぉっと風が吹き、山の木々が騒いだ。みるみる黒雲が湧(わ)いて激しい雨が落ちてきた。湖が泡立ったと。
 お供の者たちは、口々(くちぐち)に姫の名を呼び岸辺を右へ左へ走っていたが、そのうちにひとりの腰元が、
 「姫さまぁ」
と叫(さ)かんで湖へ飛びこむと、他の腰元たちも次々に飛びこんで行った。 
 湖に沈んだ腰元たちは蟹(かに)になったと。 
 それから長い長い歳月(さいげつ)が経(た)ち、いつしかこの蟹を”腰元蟹(こしもとがに)”と呼ぶようになった。
 腰元蟹たちは、今でも水底(みなぞこ)の藻(も)や、沈んだ落ち葉をかきわけかきわけ姫を捜(さが)しているのだと。
 腰元蟹が湖をきれいに掃除(そうじ)するので、榛名湖の水はいつも澄んでいるのだそうな。

 おしまい。

「榛名湖の腰元蟹」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

驚き

そんなことがあったんだなぁ、初めて知りました。びっくり‼️( 10代 / 男性 )

感動

知らなかったのでびっくりしました。( 10代 / 女性 )

驚き

聴いたことある( 10代 / 男性 )

もっと表示する
感動

知らなかった

感動

いい物語だった!

感動

小さい頃、榛名湖でスケートやわかさぎ釣りをしたことがあります。あの湖にこんな悲しい昔話があったんですね!( 50代 / 女性 )

楽しい

おもしろかった!( 20代 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

蜘蛛の恩返し(くものおんがえし)

 昔、あるところにひとりの兄さまがあったと。  ある晩げ、天井から一匹の蜘蛛がおりてきた。  夜、蜘蛛が家に入ってくるのは縁起が悪いといわれているので、兄さまは、  「クモ、クモ、今晩何しておりてきた」 といって、蜘蛛を囲炉裏の火にくべようとした。そしたら蜘蛛が、  「兄さま、どうか助けで呉」 というた。

この昔話を聴く

サルとカエルの餅競争(さるとかえるのもちきょうそう)

 むかし  サルとカエルがおって、餅搗(もちつ)いて食べまいかという相談をしたと。  ペッタラ ペッタラ ペッタラコ  ペッタラ ペッタラ ペッタラコ

この昔話を聴く

若返りの水(わかがえりのみず)

昔、あったけどな。ある所(どこ)さ、爺様(じさま)と婆様(ばさま)、仲良ぐ暮らし立てでいだけど。あるとき、爺様、山さ柴刈り(しばかり)さ行って、一生…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!