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おまんきつね
『おまん狐』

― 福島県 ―
語り 井上 瑤
再話 井出 文蔵

 はァ、ちっとばか昔の話じャ。
 ある山奥に、まわりを峠(とうげ)に囲まれた里があってャ、稲刈りも終って、はァ、北風の吹きはじめる頃だったとョ。
 馬の背ェで峠を越えた花嫁が、ススキの原っぱをポック、ポックと突っ切っとるとセ、青白い光が、ボオッ、ボオッとしてたけんど。
 行列ン衆(しゅう)は、
 「また、峠のおまん狐(きつね)がよだれェたらしてるのセ」
と、気にも止めんかったとャ。
 せえがら、すっかり日も暮れる頃にャ、花嫁行列は里についたとセ。
 いいお月さんが、山の端(はし)に出た時にャ、村中総出の祝言(しゅうげん)がはじまったとェ。

 
 ところがセ、祝言も半(なか)ばんなって、いよいよ三三九度(さんさんくど)の盃(さかづき)ってときに、何んと、花嫁の顔が狐になっておったとョ。
 みいんな、オロオロするばっかりで、仲人(なこうど)さまが、
 「おまん狐の仕業(しわざ)だで、とっつかめえろ!!」
 ちゅうたが、みんなポカ―ンとしとって、逃がしてしもうたとョ。
 「本物の花嫁は、どこだべな」
とて、提灯(ちょうちん)下(さ)げて探したら、ススキの原っぱで、ソバ喰(く)うまねしてツルツル。まんじゅう喰うとてパクパクしてたとセ。
 せえがらまァ、花嫁の眼ェさまさして、 何んとか祝言すませたが、そりゃあ、おお事だったとョ。
 
 峠に逃げて帰(けえ)ったおまん狐は
 「酒が呑(の)めんで残念だァ」
とて、隣村のお七(しち)という、化け上手、騙(だま)し上手の狐に弟子入りして、修行(しゅぎょう)をつんだとセ。


 次の年のことよ。
 ススキの原が真っ白んなると、おまん狐は花嫁行列を待っとって、また、化けることにしたとャ。
 ”ボワ―ン”
 修行をつんだで、花嫁の化け方ァ、それは見事だったてャ。
 せえがら、祝言のご馳走(ちそう)、たあ―んと喰って、ホクホクしとったがャ、根(ね)ェが酒好きとて、ガボガボ呑(の)んで、またまた、しっぽを出してしもうたとョ。
 去年(きょねん)の今年(ことし)だで、村ン衆は、「こん畜生(ちくしょう)」 と、ぶっかかったてがャ、おまん狐は何んとか逃(の)がれたとョ。
 んでもセ、酔っぱらっちまって頭もまわらねェ。逃げに逃げて、ひょっと見たりゃ、別の峠を越えちまったとョ。
 
 その峠はな、夜逃(よに)げもんとか、家出もんとかが越えっと、二度とこの里に戻ってこれんという峠だったのセ。
 せえがらは、山の青白(じれ)ェ狐火(きつねび)も、見られんようになったでやんすョ。

 ざっと昔さけぇた。

「おまん狐」のみんなの声

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