― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
採集・再話 今村 泰子
整理・加筆 六渡 邦昭
むがし、あるところに爺(じ)っちゃと婆(ばんば)ど居てあったさんべんた。二人暮(く)らしていた訳(わけ)だ。
家も貧乏(びんぼう)なって、天井(てんじょう)から雨もむるし、馬こもいてあったぁじ、売ってしまっで、今は居(え)ね訳だ。
ある、うんて雨の降(ふ)る晩(ばん)げ、とんじの虎(とら)来てナ、今に爺っちゃと婆どこ喰ってしまうと思(も)って忍び込んで来た訳だ。
挿絵:福本隆男
そやして、馬屋(まや)に入って行ったば、馬も居(え)ねぐ、あっちの部屋で爺っちゃと婆ど二人寝て話していた、その話聞けえて来る訳だ。
「婆、婆、漏(も)りきたぞ。ほれ、そこへもあそこへも。こっちの隅(すみ)こで二人寄ってるべ」
「爺っちゃ、爺っちゃ、とんじの虎より、古屋の漏(も)りほどおっかねぇものはねえでぁ」
「んだ。古屋の漏りほどおっかねぇものはねえでぁ」
て。したけ、とんじの虎ナ、
「はてな。俺さまより、ふるやのもり、おっかねえてば、ひば何だら者だべが」
て、不思議がって、ふるやのもりって化物(ばけもの)、どこさ居(え)るべがと思(も)ってビクついていだけ。
したけ、そこさ、戸コ、ソーッと開けて、馬盗むね来た人、しめしめ馬だと思って、いきなり虎さまたがった訳だ。
そやして、虎の耳つかまえで手繰(たぐ)ちだ。
虎もハア、ふるやのもり、とりついだと思って、びっくりして、ぶっ走ってしまった訳だ。
しばらく走ったところ、馬盗人ハア、俺がまたえでいるのは馬でねぐって虎だってごと気付いたけんど、落ちれば喰われるし、耳さぎっちりつかまえでいたぁげだ。
挿絵:福本隆男
虎、ふり落とすべがと思(も)っが落ちね。千里も走って、戻って来た訳だ。ひばやっと盗人そこさ跳(は)ね下りだ。ひば虎、やっと化物おりだと思(も)って、また千里もぶっ走って唐土へ行ってしまった訳だ。
唐土の獣(けもの)の仲間のどこさ行って、
「俺れ、日本でおっそろしい思(おも)いしてきた。ふるやのもり、てぇ化物に乗られて、やっとふり落とし、命一つ拾ってきた」
て、語った訳だ。
日本では馬盗人もまた、
「なんと、おれ虎の背中さ乗って、やっと命ひとつ拾ってきた」
て、ひとここちしてあった訳だ。
ひば、命二つ拾ったでねか。
どんぴんぱらりのぷう。
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とんとむかし。高知県土佐の幡多の中村に泰作さんというて、そりゃひょうきんな男がおったそうな。 人をだますのが好きで、人をかついじゃ面白がりよったと。 ある日のことじゃった。 泰作さんは屋根にあがって、ひとりで屋根ふきをしょった。 ほいたらそこへ、近所の若いしらが二、三人で通りかかったちゅうが。
「唐土の虎」のみんなの声
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