此の話は、露にも本質の似た話が有る。マルシャーク作の十二月物語で、継母と継姉が、主人公の女の子に、其の季節に無い物を取って来いと言って追い出した処、十二月を司る男達に出会い助けられた。( 女性 )
― 山梨県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところにお雪(ゆき)とお君(きみ)という二人の姉妹(しまい)があった。姉のお雪は先妻(せんさい)の子で、お君は後妻(ごさい)の子であったと。父親も亡くなってからは、お雪はことごとにお君と継母(ままはは)に辛くあたられておったと。
ある年の正月のこと。妹のお君が、
「お母(か)ァ、おらァ木苺(きいちご)が食いたい」
と言い出した。継母は、
「ほれぇ、お君がああ言っているだろう。われぇ行って木苺を取って来ォ」
と言って、お雪に単衣物(ひとえもの)を一枚着せて、籠(かご)を背負(しょ)わせて、家の外へ追い出した。
外は雪が降(ふ)り積(つも)って、山も畠(はたけ)も真白だ。
今時分(いまじぶん)どこにも苺などあるはずがない。
お雪はあてもなく、籠を背負って雪道を滑(すべ)り滑り山を登って行った。
そこここの雪を手で払(はら)っちゃぁ見い、払っちゃぁ見いしたが、もとより、苺など見つかる道理がない。
寒さは浸(し)みるし、腹は減るし、手は凍(こご)えるし、途方に暮れて雪の中へしゃがみ込んでシクシク泣いたと。
するとそこへ、どこからともなく一人の髪の白い爺さんが現われて、
「これ、こんなところでお前は何故泣いている」
と聞いた。お雪が、
「苺を取りに来たけれども、どこを探しても雪ばかりで、困っていました」
と答えると、爺さんは、
「ほう、苺をな。こりゃ驚(おどろ)いた。今時分苺がなっているはずはなかろうが。だが、なぜそんな気をおこした」
と、重ねて聞く。
お雪は、身の上話とわけを話したと。
「そうか、それァ可哀そうな事じゃのう。それではわしと一緒に来るとよい」
と言って、爺さんが先に立って歩き出したので、お雪も後ろからついて行ったと。
やがて爺さんの家に着くと、爺さんには、一月から十二月まで十二人の息子があって、どの息子も、いつでもその月の時節(じせつ)を呼び出す事が出来るのだと。
ここには、いつでも一年中の果物(くだもの)があって、お雪は、さまざまな果物を御馳走(ごちそう)になった。
お雪が食べ終わると、爺さんは大きい声で、
「六月、六月」
と呼ばった。すると立派な若い息子が一人やって来て、
「お父さま、用は何だえ」
と言った。爺さんが、
「この娘が苺を欲しいそうだからならしてやれ」
というと、六月の息子は、
「はい、ようごいす」
と言って、どこかへ行ったと。
すると不思議なことに、たちまちあたりがポカポカと暖(ぬく)くなって、庭の雪が解け、そこにもここにも苺の木がはえ、花が咲き、やがてうまそうな苺の実がたくさんなった。
お雪は籠いっぱい苺を摘(つ)み取り、爺さんに厚(あつ)く礼を言って家へ帰ったと。
継母と妹のお君は、お雪があるはずのない苺を取って来たので、びっくりした。
二人は、苺をむさぼり食いながら、
「どこで取って来た」
と聞いた。
お雪が、爺さんとその息子たちのことを話したら、突然、継母が、
「われァ、ええかげんの出放題(でほうだい)を言って人をたぶらかす」
と怒った。妹のお君も、
「お姉ちゃんは、苺を山へたくさん隠しておいて、後で自分一人で行って食うつもりなんだ。お母ァ、おらァまっと食べたい」
と言った。
「もうええ、お雪の腹ァわかった。今度ァ、オレとお君とで行って取って来る。われの歩いた足跡をたどれば、すぐにわかるんだ」
と言って、継母とお君は、綿入れの着物を幾枚(いくまい)も重ね着して山へ行ったと。
二人は籠を背負って、あっち、こっち、歩いたと。
が、苺はどこにもなくて、爺さんも現れなかった。
そのうちに、どか雪が降って、二人は雪の下に埋(う)まって凍え死んだと。
お雪は、やがて、ええところへ嫁に行って幸せに暮らしたと。
めでたし めでたし。
此の話は、露にも本質の似た話が有る。マルシャーク作の十二月物語で、継母と継姉が、主人公の女の子に、其の季節に無い物を取って来いと言って追い出した処、十二月を司る男達に出会い助けられた。( 女性 )
むがし あったど。 あるどごに、誰も住んでいないお寺あったど。 これまで和尚(おしょう)さん幾人(いくたり)も来たけれども、翌朝になると居ねぐなっている。まんだ解(と)かれていね荷物(にもつ)だけが残っていて、奇妙な塩梅(あんばい)だと。
「継子と六月息子」のみんなの声
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