欲深な人は、良いことがない。まさにそうだと思いました。窓辺さんのドラマの様にいろいろ裏があるんだなと思いました。( 10代 / 男性 )
― 山梨県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに、米、味噌、醤油を売る店があったと。
いく代(だい)も続いて信用もあったのだが、どうしたわけか、だんだん身上(しんしょう)が傾(かたむ)いてきた。
店の老夫婦は何とかして元通りに繁盛(はんじょう)させたいものだと、二人で相談して、「売桝(ます)」と「買桝」、それと、「売秤(ばかり)」と「買秤」を作った。
売桝の方は正しい桝より少し小さく、
買桝の方は正しい桝より少し大きい。
売計りの方は正しい分銅(ふんどう)より少し軽くし、
買計りの方は正しい分銅より少し重くしたと。
仕入れるときは正しい目方(めかた)より少し多めに、
売るときは正しい目方より少し少なめに
こういう具合にすれば買いと売りとで両方余計に儲(もう)かるという寸法だ。
卸問屋(おろしどんや)もお客も欺(だま)されて、店はだんだん身上がよくなってきた二人してほくそ笑(え)んでいたと。
ところが、しばらくすると、
「このごろ、あの店の桝目はこすくないか。どうも吝(けち)くさい」
と評判になって、客足が遠のきはじめた。
卸問屋の方でも、
「あの店は、どうも勘定(かんじょう)より余計に品物を取られているような気がしてならん」
というて、取引するのを、だんだん嫌がるようになったと。
こうして、買い手も売り手も寄りつかない有様となって、店は前よりますます傾く一方になったと。
ちょうどその頃、この店には年頃の息子が一人あった。
方々(ほうぼう)探して、ようやく嫁の来手(きて)が見つかったと。
その嫁は望外(ぼうがい)の働きものだった。商(あきない)が好きとみえて、店に出たがるのだと。
老夫婦は、「売桝」「買桝」と「売計り」と「買計り」がばれると困る。嫁に、
「家の中のことをやっとればいいで」
というて、自分たちだけで店働きをしていたと。
嫁は、そうは言われても商好(あきないず)きだったから隙(すき)をみつけては二人の様子をじいっと見ていた。とうとう「売桝、買桝」の秘密を見破ってしまったと。
「ははぁん、評判の悪いのは、あのせいだな」
と悟(さと)った嫁は、ある日、老夫婦に、
「おらに店をやらしてけれ、それがいやなら、おら実家(さと)に帰らしてもらいます」
というた。
傾きかけた身上で嫁に帰られてはなを困る。老夫婦は嫁に店働きをかわってもらうことにしたと。そうなれば二(ふた)とうりの桝と計りは嫁には見せられん。火にくべようとした。そしたら嫁は、
「ぜひそれを、おらに譲(ゆず)っておくんなさい」
というた。
それらを譲ってもらった嫁は、次の日から店に出て、老夫婦とは逆のことをはじめた。
小さめの売桝で卸問屋から物を仕入れ、大きめの買桝でお客に物を売った。
それを見た老夫婦は、
「ただでさえ傾(かし)ぎかかっとるのに、あんなことをされては大損(おおぞん)だ」
と気が気でない。
ところが、買い手が家に帰って、試(ため)しに買ったものを量ってみたら十二分(ぶん)に多い。卸問屋でも勘定してみると、得をしている。
「あの店も嫁の代になったら大変勉強するようになった」
と評判がたち、客は押しかける、卸問屋も競争でやって来て、良い品を安く卸して行くようになる。こんな有様で、店はみるみる大繁盛したと。
いっちんさけえ。
欲深な人は、良いことがない。まさにそうだと思いました。窓辺さんのドラマの様にいろいろ裏があるんだなと思いました。( 10代 / 男性 )
悪い人が儲かって良い人が儲からないこの世が嫌いになる事があるので、嬉しくなったです。( 10歳未満 / 女性 )
「売桝、買桝」のみんなの声
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