― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、あるところに一人の爺様(じさま)がおって、前千刈(まえせんか)り、裏千刈(うらせんか)りの田地(でんち)を持っておったと。
その爺さまに一人の気だてのいい娘がいたと。
娘は毎日、鍋釜(なべかま)を井戸で洗うのだが、そのたびに、井戸に住みついた沢蟹に、洗い落としたご飯粒を与えて可愛がっていたと。
ある春のこと。 娘の家では大勢の田植え人を頼んで、田植をしたと。
娘は田植の小昼飯(こびるめし)に、黄な粉をまぶした握り飯を作ったと。稲の穂が黄な粉みたいに黄金色に稔るように願ってだと。
その握り飯をひとつ、井戸の蟹へ呉れてから田んぼへ持って行ったと。
そしたら、田の中道(なかみち)で、大っきな蛇が通せんぼしたと。そして、
「オレの嫁になんねえと、田に水をかけてやんねぇぞぉ」
というのだと。
娘はびっくりして、
「おっかねちゃぁ、誰か助けろやぁい」
と叫んだと。が、誰も来ない。
しかたない、握り飯を投げつけて逃げ帰ったと。
大蛇は、その握り飯をストンストン、みんな呑み込んでから、
「今度(こんだ)ぁ、あの娘ば呑む番だ。待で、待でぇ」
といって追っかけて来たと。
爺様、娘の語る訳聞(わけき)いて、すぐ、蔵の中の石の唐櫃へ、娘をわらわら隠したと。
追っかけて来た大蛇は、火ィみたいな赤い舌をペロラペロラ吐いて、
「やい爺様、ここさ娘が逃げて来たべ。隠したて、だめだ。オラすっかり分ってんだ」
といって、すぐに蔵の中の唐櫃を見つけて、グルリ、グルリ七周り半も巻きつけたと。
石の唐櫃が熱(ねつ)もって来て、中から、
「あついっちゃ、あついっちゃ。助けてけろやーい」
と、娘の叫けぶ細い声が聞こえたと、爺様が、
「やめれ、やめれ」
と、おろおろしてたら、井戸から、大っきな蟹が出て来て、ガサラ、ガサラ蔵の中へ入って行ったと。
そして、大っきなハサミで、大蛇をバッキン、バッキン切りにかかったと。
大蛇も蟹にからみついて、ギリギリ締める。
バッキン、ギリギリ。ギリギリ、バッキン。
大っきな蟹と、大っきな蛇が、全力かけて戦ったと。
そのすきに、爺様は娘を石の唐櫃から出して、逃げたと。
戦いは蛇が負けて蟹が勝ったと。
したが、蟹もくたびれ切ってハァ、ついに死んでしまったと。
爺様と娘は、「カニ観音」をつくって、その蟹を祀(まつ)ったと。
こんなことがあるから、弱い生き物をも大事にしなければならないもんだと。
「情けは人のためならず」
ってな。
ドンピン、サンスケ、猿の尻(けつ)。
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むかし、あるところに旅商人の小間物売りがおったと。 小間物売りが山越(ご)えをしていたら、途(と)中で日が暮(く)れたと。 あたりは真っ暗闇(やみ)になって、行くもならず引き返すもならず途方に暮れていたら、森の奥(おく)に灯りが見えた。
「蟹の恩返し」のみんなの声
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