― 和歌山県 ―
語り 井上 瑤
再話 和田 寛
再々話 六渡 邦昭
紀州(きしゅう)、今の和歌山県西牟婁郡中辺路町(にしむろぐんなかへじまち)に伝わる話をしようかの。
ガイラボシというのを知っているかな。
ガイラボシというのは熊野地方の方言で河童のことをそう呼んでいる。
夏、川や海へ泳ぎに行くと、水の中へ引きずり込んで尻子玉(しりこだま)を抜くという、あれのことだ。
そのガイラボシが、むかし、中辺路の温川(ぬるみがわ)に棲(す)んでおったんだと。
なんでも、うわさでは、このガイラボシはほかのと違って頭にたいそうきれいなカンザシをさしておったそうな。
その頃村に、シゲノという、かわいい、かわいい娘がおったって。
シゲノは、村の人たちがそのうわさをする度に目をかがやかせて聞いておったが、そのうちに、
「一度でいいから、おらも、そのカンザシを見てみてえ」
いうて、見とうて、見とうてたまらんようになったと。
そこで、二親(ふたおや)が寝しずまるのを待って、こっそり家を抜け出して、ガイラボシが出るという川べりへ出掛けて行ったと。幾晩もだと。
物かげに隠れて、じいっと目をこらして川を見つめ続けては、
「今日も出てこんかった」
いうて、つまらなさそうに家に戻るんだと。
そんなことをくり返しているうちに、幾晩めかに、とうとうそのガイラボシに出会うたと。
月の光に照らされたカンザシは、キラキラ、キラキラ輝き、それはもうきれいなものだったそうな。
「一度でいいから、あのカンザシをさしてみたい」
シゲノはすっかりこのカンザシに心をうばわれてしまったと。
ある晩のこと、シゲノが川べりに来てみたら、水の中からガイラボシが頭を出した。
月明かりで水はテラテラ光っとるし、カンザシはキラキラ輝いとるし、シゲノの頭はしびれたようにボ―ッとしてしまった。
するとそのガイラボシがシゲノの方を向いて、おいでおいでと手招きをする。
シゲノは招かれるままに川の中に入っていった。
一歩、また一歩。水はシゲノのひざから腰、そして胸のあたりへとだんだん深くなっていく。それでもシゲノはガイラボシに近づいて行った。
その晩を境に、村の人でシゲノの姿を見かけた人はだあれもおらん。
ただ、そんなことがあってから、村の人たちは、その淵を「シゲノ淵」と呼ぶようになったんだと。
おしまい。
民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。
「感想を投稿する!」ボタンをクリックして
さっそく投稿してみましょう!
昔、あるところにね、機織り(はたおり)の上手な美しい娘がいたって。その娘のところにね、夜な夜な、赤い鉢巻(はちまき)をした美しい男が通(かよ)って来…
昔、あるところに貧乏(びんぼう)な爺(じい)さんがあった。 爺さんの田圃(たんぼ)へ行く途中(とちゅう)の岐れ道(わかれみち)のところに、庚申様(こうしんさま)が祀(まつ)られてあった。
むかし、ある村に藤六(とうろく)という百姓(ひゃくしょう)がおったと。 ある日のこと、藤六が旅から村に帰って来る途(と)中、村はずれの地蔵(じぞう)堂のかげで、一匹の狐(きつね)が昼寝(ね)しているのを見つけた。
「カンザシをさした河童」のみんなの声
〜あなたの感想をお寄せください〜