私は語り部で定年後二十三年回っています。方言でこの昔話をして、喜ばれています。 この事業は素晴らしくありがたいです。ありがとうございます。 永遠に続けて心をほつこりさせて下さい( 80代以上 / 女性 )
― 大阪府 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに蛙(かえる)によく似た形をした大きな石があったと。
村の年寄(としよ)りたちは、子供たちに、
「あの蛙石(かえるいし)な、こわいぞ。口をあいて、ぱっくり食われてしまうからな。ゆめ、そばに行ったらいかん」
と、いつもいいきかせていたと。
近在の人間は大人も子供も、誰もこの蛙石には近寄らないようにしていたと。
しかし、何年かごとに必ず度胸試(どきょうだめ)しをしようとする悪ガキがいてあぶないのだと。
ある年のこと、ガキ大将(だいしょう)が子分たちに、
「あんなもんただの石だ。跳(と)びはねるわけじゃない。誰か素速(すばや)くさわって来い」
と、命令した。
そしたら、
「おら 行かん」
「おらも」
「あたいも」
いうて、みんな尻ごみをした。
「大将の言うことが聞けんのか」
「だ、だども、食われたくないもん」
「近寄ったらいかんて、父(とう)ちゃんが言うていた」
「婆(ばあ)ちゃんが言うていた」
「大将の爺(じい)ちゃんも言うていた」
という。
本当はガキ大将もこわい。で、蛙石をにらんどったら、そこへスズメが飛んできて、蛙石の上にとまった。
蛙石は大きな口をパクッと開けて、スズメをひと呑(の)みにした。
子供たちは、「わ―っ」と先を争って逃げたと。
こうしてまたしばらくは蛙石に近寄る者はいなくなるのだが、そんなこととは知らないスズメだのシジュウカラだのの小鳥たちは、それからも羽根休めにこの蛙石の上に止(と)まっていたと。
すると蛙石は、やっぱり大きな口を開けて、パクッと呑み込んでしまう。
ある日、ひとりのお百姓(ひゃくしょう)さんが畑仕事をしながら、その数を数えていると、日が暮れるまでに、なんと三十羽もの小鳥を食ってしまったと。
「一日三十羽なら、一(ひと)月で九百羽だ。一年では、う―んと、やあ、一万八百羽にもなる。こりゃ、えらいことだ。わしの村に小鳥がいないようになってしまうわい。どうでも蛙石の口が開かないようにせにゃ」
その晩、お百姓さんは蛙石が眠った頃合(ころあい)に蛙石の口のまわりを強い縄(なわ)でぐるぐる巻きにしばったと。
「やれやれ、蛙石め、これでもう口を開けられまい」
と、ひと安心したと。
次の朝、お百姓さんが畑に出て蛙石の様子(ようす)を見ていると、スズメが三羽蛙石の上へ止まった。
「蛙石めが、もう食いとうても食われまい」
と、ゆかいがっていた。
そしたらなんと。苦もなく縄がぶつんと切れて、大きな口が開いて、パクッと、スズメを呑み込んでしまった。
お百姓さん、腰抜(こしぬ)かすほど魂消(たまげ)たと。
「すごい力だ。あの蛙石はまっこと殺生石(せっしょうせき)だ。孫の代まで近寄らせまいぞ」
いうて、鍬(くわ)をかついでとんで帰ったと。
蛙石は他(ほか)にもあるが、どれが殺生石かわからんから、ゆめ、近寄ってはならんぞ。
けっちりこ。
私は語り部で定年後二十三年回っています。方言でこの昔話をして、喜ばれています。 この事業は素晴らしくありがたいです。ありがとうございます。 永遠に続けて心をほつこりさせて下さい( 80代以上 / 女性 )
むかし、あるところに婆さまがあったと。 婆さま、田んぼへ行って草取りしたと。 昼どきになったので弁当を食うていたら、一匹の狐(きつね)が田んぼの畔(あぜ)の上をゆっくりゆっくり歩いて近づいてきた。
むかし、馬を引いて荷物を運ぶ、ひとりの馬方(うまかた)がおった。ある日、馬方は山を越えた村へ出かけて行った。塩と魚をたあんと馬に背おわせて、コットリコットリ、峠(とうげ)までくると日が暮れてしまった。するとうしろから・・・
「蛙石」のみんなの声
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