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ひとけしぐさ
『人消し草』

― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志

 むかし、むかし。
 あるところに、爺さまと婆さまが住んでおった。爺さまが隣村へ用たしに行った帰り、山道を歩いていると、むこうから一人の旅人がやってきた。
 そうしたら、突然道のわきから、ザザザッ―と大きな蛇(へび)が現われて、あっという間にその旅人を飲み込んでしもうた。
 爺さまは驚(おどろ)いた。
 『これが噂(うわさ)の人喰(ひとく)い蛇か。おとろしい、おとろしい』
 と思うて、木陰に隠れると、じっと様子を見ていた。
 人喰い蛇は、人を飲み込んだもんだから、腹をでっこうして、ウンウンうなって、もがいている。 

 
 そのうちに、ノタリノタリと動き出して、道のそばにはえている草をムシャムシャ食べ始めた。すると、蛇の腹がだんだんちいそうなっていく。やがて、元の通りの腹になると、気持ちよさそうに、スルスルとやまの奥へ入って行った。
 
 しばらくして、爺さまは、もう蛇はおらんだろうと、さっき蛇が食べていた草を見に行った。それは、今までに見たこともない、青々とした草だった。
 『これを食えば、腹の中のものはみんなとけて、元の通りになるのか』
 と思うて、その草を根っこごと抜いて、家へ持って帰った。
 その晩、爺さまは人喰い蛇と不思議な草のことを、婆さまに話して、大好物のソバを沢山作らせた。爺さまは、ソバができ上ると、どんどんどんどんすすりこんだ。
 あんまり沢山食べるので、婆さまが心配をして、 

 
 「爺さま、いいかげんにせいよ」
というても、
 「心配いらん。いくら食べても、この草があるから大丈夫だ」
というて、いうことをきかん。とうとう、十人分のソバを一人で食べてしもうた。
 腹でっこうした爺さまは、青い草を取り出して、蛇と同じようにムシャムシャ食べ始めた。そうしたら、急に寝むくなってきたので、爺さまは、そのまま布団(ふとん)にもぐり込むと、ぐっすり寝こんでしもうた。
 
 次の日、日が高くなっても、爺さまは起きてこない。それで婆さまが、
 「爺さま、もう起きろや」
というて、布団をめくると、爺さまの着物だけがあった。
 『おかしいなぁー』
 と、着物をとってみたら、なんと、寝床の上には、ソバが山盛りになっていた。


 蛇が食べていた草は、”人消し草”というて、ひとの体をとかす草だったそうな。だから、人が食べれば、体がとけてしまうので、爺さまもとけてしまったというわけさ。

 もうし、もうし、米ん団子

「人消し草」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

怖い

旅人が草で消化されるのをみて、ソバをたくさん食べる計算をした爺さんが本当の恐怖だと思いました。( 10代 / 男性 )

驚き

もう少し調べてから食べたほうがいいと思いました。毎週分ネットで見ています。毎週お話とっても面白いです。( 10歳未満 / 女性 )

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