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めっこだぬき
『めっこ狸』

― 新潟県岩船郡 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 とんと昔があった。
 昔あるところに、爺(じ)さと婆(ば)さが暮らしていたと。
 ある日、爺さが、
 「婆さ、婆さ、おらは町へ行って来るから、弁当をつくってくれ」
というて、婆さに弁当を作ってもらったと。出しなに、
 「今日は用事がたんとあるから、遅くなるかも知れん」
と、いいおいて町へ出かけたと。

 
めっこ狸挿絵:福本隆男
 
 ところが、いつも村人をだましては困らせている狸(たぬき)がこれを聞いていた。そして、
 「ようし、今日は、ここの婆さだましてやろう」
と、ほくそえんだと。


 晩方(ばんがた)になって、爺さが町から帰って来た。
 「婆さ、婆さ、今戻った」
 「はぇ、ご苦労でござんした」
 婆さが迎えに出て、ヒョイと爺さを見たら、どうもいつもの爺さと様子がちがう。
 よくよく見たら、爺さの左目っこが右目っこになっていて逆だ。
 家の爺さは、左の目を痛(いた)めてつぶれてしまい、左目っこだったと。婆さは、
 「ははあん、これは狸だな、さあて、どうしてくれよう」
と知らんふりして、考えた。


 晩飯を食べると、爺さはイロリの側(そば)でお茶を飲んでいたが、やがて、
 「今日は町へ行って、疲(つか)れた。どれ眠(ねむ)ろうか」
というた。婆さ、
 「爺さ、爺さ、いつもの通り、袋の中へ入って寝(ね)るかい」
と聞くと、爺さは、
 「おう、そうともさ」
と、答えた。


 そこで婆さは、人が入るほどの大きな袋を持って来たと。爺さは、その中に入って、寝転(ねころ)んだ。
 「爺さ、爺さ、、いつもの通り、この袋の口をしばろうかい」
 「おう、そうともさ」
 婆さは、袋の口をしっかりしばった。
 「爺さ、爺さ、いつもの通り、この袋を天井のはりにぶらさげようかい」
 「おう、そうともさ」
 婆さは、袋を、はりにぶらさげた。
 「爺さ、爺さ、いつもの通り、棒(ぼう)でたたこうかい」
 「おう、そうともさ」

 
めっこ狸挿絵:福本隆男

 婆さは、始めのうちはそろそろと叩(たた)いていたが、だんだん強く叩いていった。


 「婆さ、婆さ、痛いが痛いが、そろりそろりと叩いてくれや」
 「爺さ、爺さ、何いうているがだい。おらはいつもの通り叩いているがだ。このくらいが一番良いというていたくせに」
 「おう、そうともさ」
 婆さは、力まかせに叩きに叩いた。
 「痛い、痛い、これじゃおらが死んでしまうが」
 「何が痛い、この化け狸め。おらをだまして爺さに化けて来てからに。叩き殺(ころ)してやるから、そう思え」


 狸は、とうとう婆さに叩き殺されて、元の狸の姿になったと。
 そのうちに、本当の爺さが帰って来た。婆さは狸退治(たぬきたいじ)の話をして、二人で狸汁(たぬきじる)をこしらえて食べたと。
 
 いきがさけた、どっぴん。

「めっこ狸」のみんなの声

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怖い

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