鬼をかくまうといいこともある!のか?わかんねーべどす。まぁこのじさぁば、いいことあったんやさかい、めでたしめでたしてっか。 ( 10代 / 男性 )
― 新潟県小千谷市 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに伝兵衛(でんべえ)という爺(じい)がおった。酒とバクチとケンカが何より好きで、おまけに偏屈者(へんくつもん)であったと。
ある年の節分の晩(ばん)、
「よそと同じように豆まきしてもつまらん。おらとこはあべこべにやる」
「そうれ、福は外、鬼(おに)は内」
というて、豆まきしたと。
そしたら、赤鬼と黒鬼とが駆(か)け込(こ)んで来た。
「やぁありがたい。お前(め)だけだ、鬼は内言うてくれたのは。見てくれ、熱い豆をぶっつけられてヤケドが出来た。逃(に)げまわって腹(はら)へった。何かを食わせてくれ」
「あぁ、びっくりした。けど、面白い。何も無(ね)えけど鰊(にしん)で良(え)がったら一緒に呑(の)まれ」
伝兵衛爺と赤鬼、黒鬼は車座(くるまざ)で酒を呑んだと。
「爺さ、おかげでやっと節分らしくなった。お礼に、お前に銭(ぜに)もうけさせてやる。お前はバクチが好きだから、おらたちがサイコロになる」
「んだ。お前の望みの目を出してやる。これからバクチ場さ行って銭もうけすれ」
赤鬼と黒鬼は、こういうとでんぐりをうって、コロコロと二つのサイコロになった。
爺さは鬼の化けた二つのサイコロを転がして、面白いようにもうかったと。
「伝兵衛爺、おらたちもおかげで今年の節分は楽しかった。また来年も来るから、そしたらまた呑むべ」
というて、赤鬼と黒鬼は帰って行ったと。
次の年の節分になった。
爺さは、酒やごっつぉを用意して、また、
「福は外、鬼は内」
いうて、豆まきしたと。
が、どうしたのか、いくら待っても、なんぼまいても、鬼たちはやって来なかったと。
次の年も、その次の年も来なかったと。
そのうちに伝兵衛爺は病気で死んでしもうた。
地獄(じごく)へ行ったと。えんまさまが、
「これ伝兵衛、お前(め)は娑婆(しゃば)で悪(わり)いことばっかりしてたから釜(かま)ゆでにする。これ鬼ども、伝兵衛を釜の中へ入れろ」
いうて、「ヘーイ」「ヘーイ」と出て来た鬼どもを見たら、あの赤鬼と黒鬼だった。
「おう、お前は伝兵衛爺だねか」
「ほんにお前は地獄へ来たか」
と、なつかしがったと。
赤鬼と黒鬼とで大釜の湯のところへ爺さを担(かつ)ぎ運びながら、小声で、
「地獄へ来たら、おらたちにまかせておけや」
「んだ、なんも案じるこたぁ無(ね)ぇ」
と、ささやいた。
そして、わざと乱暴(らんぼう)に釜の中に投げ入れた。湯は熱いどころか、ほどよいかげんだったと。爺さは、
「うんこれはまんず、殿(との)様湯だな。お前たちも一緒にどうだ」
と、いい気なもんだ。えんまさまが怒(おこ)って、
「そんげな奴ぁ鉛(なまり)の熱湯を飲ませろ」
と、いうたら、黒鬼が鉛の熱湯のかわりに酒一升(いっしょう)を黒鍋(なべ)でわかして呑ませたと。
「ええ匂(にお)いだ、うんめえな」
と、嬉(うれ)しそうにンゴンゴ呑みほすのを見たえんまさま、いよいよ怒って、
「お前たち、伝兵衛の奴(やつ)を呑んでしまえ」
というた。
そこで赤鬼が、
「お前を呑み込むけど案じるな」
と、ささやいて、大口あけてベロリ呑み込んだと。
爺さ、腹の中で、へその筋(すじ)を引っぱったら赤鬼は、
「こちょばゆい、こちょばゆい、イーヒッヒ、イーヒッヒ」
と笑うた。金玉の筋を引っぱったら、チンチンおったてて、「痛(い)て、痛て、痛ぇー」いうて大げさに転げまわってみせたと。黒鬼が、
「えんまさま、あの通りでござんすが、今度(こんだ)はどうしたもんでしょう」
ときくと、えんまさま、
「にっくき爺だ。そんな奴ぁ地獄に置けん。娑婆へ吐(は)き出してしまえ」
というた。そこで赤鬼は、
「ガーッ」
と、いせいよく吐き出したと。
これを「鬼のへど」というて、今でも強い吐き出しを「鬼のへど」といっている。
鬼のへどで吐き出された伝兵衛爺は、また娑婆へ生まれ変わって、今度ぁ長生きしたと。
いちごさけえた、鍋の下ガリガリ。
鬼をかくまうといいこともある!のか?わかんねーべどす。まぁこのじさぁば、いいことあったんやさかい、めでたしめでたしてっか。 ( 10代 / 男性 )
「節分の鬼と伝兵衛爺」のみんなの声
〜あなたの感想をお寄せください〜