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やくそくごと
『約束ごと』

― 長崎県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、ある村で一日に十人の男の子が産まれたそうな。
 どの親も皆々(みなみな)お寺の和尚(おしょう)さんのところへ行って、名前をつけて下さいって、頼(たの)んだと。

 
 和尚さん、考えて、考えて、考えた末(すえ)に、親たちをお寺に来た順に並べて、
 
約束ごと挿絵:福本隆男


 「お前の子は一兵衛(いちべえ)だ」
 「次、お前の子は二兵衛(にへえ)だ」
 「次、お前の子は三兵衛(みへえ)だ」
 「次、四兵衛(よへえ)」
 「次、五兵衛(ごへえ)」
 「次、六兵衛(ろくべえ)」
 「次、七兵衛(しちべえ)」
 「次、八兵衛(はちべえ)」
 「次、九兵衛(きゅうべえ)」
 「次、おっ、これでしまいか。よしよし、お前の子は十兵衛(じゅうべえ)だ」
って、名付けたと。


 一兵衛から十兵衛まで、だんだんに大きくなって、なにをするにも一緒だと。やがていい若者になって、嫁(よめ)さんをもらうのも一緒だったと。
 あるとき、一兵衛から十兵衛までの十人で伊勢参(いせまい)りに出かけたと。
 旅に出かけてからは、どんなことがあっても腹(はら)を立てっこなしと約束したと。
 道々(みちみち)あちらこちらの宿へ泊(と)まって、ある宿でのこと、十兵衛が寝坊(ねぼう)をしたら、他の九人が相談(そうだん)して、十兵衛の髪(かみ)を切ってしまった。


 起きた十兵衛、頭が妙(みょう)にスースーする。手をやって驚(おどろ)いた。何とマゲがない。
 十兵衛のなさけない顔やあわてふためく様(さま)を見ていた他の九人は、腹を抱えて大笑いした。
 
約束ごと挿絵:福本隆男


 さては、こやつらのしわざか、と十兵衛、ようやく気がついた。
 なぐりかかろうとしたら、
 「おっとっと、怒(おこ)らない、怒らない」
 「そうそう。どんなことがあっても、腹は立てない」
 「立てない」
って言われた。
 その日も旅を続(つづ)けて、また宿に泊まった。翌朝(よくあさ)、十兵衛は腹(はら)が痛(いた)いと言い出した。
 心配する他の九人を、
 「あとからきっとおいつくから。お前(め)たちがいると気が散(ち)って、治るものも治らねえ」
って言って、先に出達(しゅったつ)させたと。


 他の九人が宿を出たら、とたんにケロリとして、旅支度(たびじたく)をし、村へ戻って行った。
 村に帰ると、一人帰った十兵衛をいぶかって、他の九人の女房たちがやってきた」
 「残念なことに、ある渡し場で渡舟(わたしぶね)がひっくり返って、残らず溺(おぼ)れて死んでしまい、自分だけが一人生き残った。旅の初めに、道中(どうちゅう)万一のことがあったら、生き残った者は国元(くにもと)へ帰り遺言(ゆいごん)を伝えるように、と約束してあったので、マゲを切り、やっとの思いで帰って来た次第(しだい)だ。
 それで、遺言通り、これからお前(め)たちは、尼(あま)になって、四国・西国・阿波の国を、皆の菩提(ぼだい)のために廻(まわ)ろうではないか」
って、言うた。

 
 九人の女房(にょうぼう)たちは、おいおい泣いて悲しんで、頭を丸めて尼さんになった。
 そして、草履脚絆(ぞうりきゃはん)に白装束(しろしょうぞく)で、十兵衛が先頭になって出かけた。
 「一兵衛、二兵衛、三兵衛、四兵衛、五兵衛、六兵衛、七兵衛、八兵衛、九兵衛の菩提のため…」
って、十人で唱えながら旅をしたと。


 ある日、いつものように十人で歩いていると、向こうから一兵衛から九兵衛まで九人の死んだはずの亭主達が楽しそうにやって来た。
 「あれー、あれー」
 「なんだ、なんだ」
 お互いの一団(いちだん)が指差しあってびっくりしている。

 
約束ごと挿絵:福本隆男

 それを見て十兵衛、にんまりした。
 「どんなことがあっても腹を立てっこなし」
こういうて、みんなと一緒に村へ帰って行ったと。
 
 こるばっかる ばんねんどん。

「約束ごと」のみんなの声

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