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やまぶしとかるわざしといしゃ
『山伏と軽業師と医者』

― 長崎県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし。山伏と軽業師と医者が同じ日に死んだ。
 三人そろって極楽の方へ歩いて行くと、おっそろしい顔をした閻魔(えんま)様が、大岩の上に座っていて、
 「勝手に極楽へ行ってはならん。取り調べをする」
というて、山伏に、
 「お前は何の仕事をしていた」
 「私は山伏をしていました」
 「そうか、お前はいいかげんなお祈りをして、金を取っていたな。地獄へ行け―」
というた。次に軽業師に、
 「お前は何の仕事をしていた」
 「私は軽業師をしていました」
 「そうか、お前は人の目をごまかして、金を取っていたな。地獄へ行け―」
というた。

 
 そして、最後の医者に、
 「お前は何の仕事をしていた」
 「私は人のためになる医者をしていました」
 「そうか、お前は病人になおらない薬をたくさん飲ませて、金を取っていたな。地獄へ行け―」
 こうして、閻魔様は手下の鬼たちに命じて、三人共地獄へおとした。
 
 地獄では、釜の中のお湯がグラグラ煮たっていた。鬼たちが三人を釜の中に入れようとすると、山伏が、
 「な―んも心配いらん」
というて、
 「ナム、クチャクチャ、アビラウンケン、ソワカ」
と、唱えると、お湯が丁度いい湯かげんになった。三人はお湯の中で、歌を歌い始めた。


 それを見ていた鬼たちはたまげて、さっそく閻魔様に報告をした。そうしたら、閻魔様は怒って、
 「よし、それなら、針の山へつれて行け―」
と、鬼たちに命じた。
 三人は、針の山へつれて行かれたが、今度は軽業師が、
 「な―んも心配いらん」
というて、綱(つな)を出し、
 「ハッ」
と、掛け声をかけると、軽業師の体は宙に浮いた。山伏と医者は、軽業師の肩の上に乗り、なんなく針の山を越えることができた。 
 鬼たちがまた、閻魔様のところへ報告に行くと、閻魔様は、赤い顔を増々赤くして、
 「それでは最後の手段だ。わしが三人を呑んでやるから、ここへつれて来い」
というた。三人が来ると、閻魔様は、ゴクリと、三人を一呑みにしてしまった。


 そうしたら、医者が、
 「な―んも心配いらん」
というて、閻魔様のお腹の笑うすじをちょっとひっぱった。すると、閻魔様は急に
 「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハ」
とお腹をかかえて笑い出した。医者が、今度は、泣くすじや怒るすじを次々に引っぱったからたまらん。閻魔様は泣いたり、怒ったり、笑ったり、てんてこまいだ。
 しまいには、三人をはき出して、
 「ええい、こんな悪い奴らは、地獄においておけん。さっさと極楽へやってしまえ」
とさけんだ。
 それで、三人は悠々と極楽へ行くことができたそうな。

 こるばっかる ばんねんどん。

「山伏と軽業師と医者」のみんなの声

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楽しい

ノンビリとしたユーモアがある所と、最後はハッピーエンドになる所が良かったです。童心に帰らせて頂きました。( 50代 / 女性 )

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