民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 狐が登場する昔話
  3. 山伏とキツネ

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

やまぶしときつね
『山伏とキツネ』

― 長野県 ―
語り 平辻 朝子
再話 大島 廣志
整理・加筆 六渡 邦昭

 むかし。
 あちこちの山を巡り歩いて修行(しゅぎょう)をするひとりの山伏(やまぶし)がおった。
 ある日、野原を通りかかると、道端(みちばた)で一匹のキツネが、気持ちよさそうに昼寝をしていた。山伏は面白半分に、ちょっとおどかしてやれと思うて、肩にかけとった大きなほら貝をとると、足音をしのばせ、キツネに近づいた。
 そして、キツネの耳にほら貝を当てて、思いっきり、
 「ブオーッ」
と吹いた。キツネはびっくりして、
 「キャン」
と叫んで跳びあがったひょうしに、そばの川へ、
 「ジャッブーン」
と、落ちてしもうた。


 山伏は、あんまりおかしいので、
 「あっはっはぁ、あっはっはぁ」
と、大笑いしたと。
 笑いながら野道を歩いていたら、今まで明るかった空が急に曇(くも)って、あれよあれよという間に、真っ暗になってしまった。
 山伏が、おかしなこともあるもんだと思いながらなおも歩いていると、向こうから、
 「チーン、ポクポク、ジャラーン」
 「チーン、ポクポク、ジャラーン」
と、鳴り物を鳴らしながら、葬式(そうしき)の行列がやってきた。驚いたことに、棺桶(かんおけ)をかついでいる者たちには、首が無い。
 山伏はおっかなくなって、そばにあった大きな木にワラワラとよじ登った。

 
 ところが、首の無い者たちは大きな木の下までやって来ると、棺桶をそこに置いて、みな、どこかへ行ってしもうた。
 山伏が木の枝につかまってふるえていると、そのうちに棺桶のふたが開き、中からネギのような細い白い手が、ニューッと出てきた。
 そして、髪の毛を長くたらした死人(しびと)がその木を登りはじめた。
 山伏はこわくなって、木の上へ上へと登っていった。すると、死人も山伏のあとについて登ってくる。山伏がもうこれ以上は登れんところまでいって下を見ると、やっぱり死人もあとをついてくる。
 山伏は切羽(せっぱ)詰まって、
 「ナム・アブラウンケン ソワカ」
と、呪文を唱えて、木のてっぺんから飛び降りた。
 「ザッブーン」
と、川に落ちたと。
 そのとたんに、真っ暗だった空が、カラーンと明るくなって、お日様は相変わらず空の真上で照っておった。
 山伏が川の中でアップ、アップしているのを、一匹のキツネが遠くで見ておったって。

 むかし、おしまい。

「山伏とキツネ」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

ネズミとイタチの寄合田(ねずみといたちのよりあいだ)

むかし、あるところにネズミとイタチがおって、川原でばったり出合ったそうな。「ネズどん、ネズどん。ここの草むらをおこして、二人で粟(あわ)でも蒔こうや…

この昔話を聴く

竜宮のお礼(りゅうぐうのおれい)

昔、あるところに親子三人がひっそり暮らしておったと。おとっつぁんは病気で長わずらいの末とうとう死んでしまったと。おっかさんと息子が後にのこり、花をつんで売ったりたきぎを切って売ってはその日その日をおくるようになったと。

この昔話を聴く

三枚のお札(さんまいのおふだ)

むかし、あるところにお寺があって、和尚(おしょう)さんと小僧(こぞう)さんが暮らしてあったと。春になって、山にウドやらワラビやらフキなどの山菜(さん…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!