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『ながし、みじかし』

― 宮崎県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに母と三人の娘(むすめ)とが住んでおったと。
 あるとき、隣(となり)からボタ餅(もち)をもろうた。
 ちょうどお昼どきだったので娘たちは早く食べたくてならない。めいめい皿を持ってチャブ台に集まった。

 
 「食べよ、食べよ」
 「早くー」
 「早くー、母さん」
 「なんだね、お前たちは」
 「だってぇ」
 「めったに食べられないもん」
 「ねぇー」
 「だぁめ、先に父さんにお供(そな)えしてから」
 母のうしろに娘たちが座(すわ)り、仏壇(ぶつだん)にボタ餅を供え、チンを鳴らして拝(おが)んだ。
 おさがりをしながら母は、いつまでも子供みたいな娘三人が、どれだけ智恵(ちえ)がついてきているか試してみたくなったと。


 「これから母さんがナゾナゾを出すからね、答えたひとからお皿に盛(も)ってやる」
 「えーっ」
 「えーじゃないの」
 チャブ台をかこんで、母と娘たちのナゾカケが始まった。
 「いい、いくよ。『ながし、みじかし、四角し、まるし』は、なぁんだ」
 娘三人は上を見たり下を見たりして考えた。

 初めに手をあげたのは長女。
 「『ながし、みじかし、四角し、まるし』は、井戸の車つるべに月夜影(つきよかげ)」
 「あれぇ、きれいな答だねぇ。ナゾトキは?」
 「だって、井戸の車つるべは、縄(なわ)の両端(りょうはじ)に箱桶(おけ)がついているでしょ。それにまあるいお月様が映(うつ)るの。ながし、みじかしはつるべの縄。片(かた)方をあげたら縄が短くなるし、そしたらもう一方は下におりるから、縄が長くなるもん」
 「はい、よく出来たねぇ」
 母は、長女の皿にボタ餅を盛った。


 「お姉ちゃん、いいなぁ」
 「うらやんでないで、考えなさい」
 「出来たぁ」
 次女が手をあげた。
 「『ながし、みじかし、四角し、まるし』は、刀の大小、鍔(つば)の四つ紋(もん)」
 「どうして」
 「だって、長い刀と短い刀でしょ。鍔はまるいでしょ。鍔の四つの紋は四角いもん」
 「見たままだけど、まぁいいわ」
 次女もボタ餅を皿に盛ってもらって、ニコニコした。

 末の娘は、姉二人の皿のボタ餅をにらみつけて、ベソかきを懸命(けんめい)にこらえている。姉たちが、
 「早く、こたえなよ」
と、せかしたら、末娘は、
 「なんにも思いつかんもん」
と、今にも泣きだしそうだと。


 「なんでもいいから、まるいのと四角いのとを、何か、思い浮(う)かべればいいの」
 「そうだよ、ほら、これはなに」
 「お盆(ぼん)」
 「丸盆でしょ。これ持ってゆうべどこかへ行ったでしょう。そのとき何踏(ふ)みっこした」
 「ゆうべぇ、うーん、うーん、あ、わかったぁ。『ながし、みじかし、四角し、まるし』は、えーと、えーと、あのね、丸盆持って、豆腐(とうふ)買い、姉ちゃんと私の影」 

 姉二人はホッとし、母はニコニコして末娘の皿にもボタ餅を盛ってやったと。
 
 こりぎりの話。

「ながし、みじかし」のみんなの声

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感動

はんぴどんというお店の由来をたどって、このサイトに来ました。 最後の、お姉ちゃんと一緒に丸盆に豆腐を載せて長い影と短い影… のところで、今は失われた風景に何だか心がほっこりとなり少し涙ぐんでしまいました。 夕焼け小焼けの赤とんぼ、負われて見たのはいつの日か 同じような温かみですね。 こんな日本の美しい風景や心がいつまでも続きますように。( 50代 / 女性 )

驚き

この女の子達頭良すぎ! 私全然分かんなかった! 表しかた神回!( 10代 / 女性 )

楽しい

ぼた餅美味しそう 結果オーライ!( 10歳未満 / 女性 )

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