我が子の為に行動した母狐の深い愛情に心打たれました。 最後は悲しい結末でしたが、それが余計しんみりといいお話になっています。 子育て幽霊の話ししかり、親の子を思う気持ちはいつの世も変わりませんね。( 50代 / 女性 )
― 宮崎県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、あるところに御殿医(ごてんい)がおったげな。
御殿医ち言うんは、お城のお殿さんや奥方(おくがた)、ご家老(かろう)とかが病気になった時にかかる、身分の高い医者どんのことじゃげな。
ある月明かりの夜、この御殿医の門戸(もん)を、
「トントン、トントン」とたたいて、一人の女(おな)ごが訪ねて来たげな。
下男(げなん)があわててとび出して見たら、門の外にゃ、りっぱなお駕籠(かご)が用意してあった。
「旦那(だんな)さん、急病人じゃげな。女ごが迎えに来ちょります」
「そうか、とにかく行ってあげようかい」
御殿医はそげん言うち、下男を供に、駕籠にゆられて行ったっと。
駕籠は、野原をこえて、山道を登って、行くが行くが行くと、大けな家の前で止まったげなが、そん家は長屋門の構えもよく、部屋の造りもりっぱな、なかなかの分限者(ぶげんしゃ)どん方(がた)であった。
御殿医と下男は、
「はて、こんげなところに分限者どん方があったがな」
と顔を見合わせていると、女ごが、
「さあ、さあ、子供が長わずらいで、寝ちょりますが」
ち、案内するげな。
御殿医はそんげ言われち、奥の部屋さ行くと、そこに、手足の細っそりした病人が寝ていた。
病人はえらい弱っちょって、持ち合わせの薬じゃ、あまり効き目がねぇごつあったと。
そいで、その夜は当座の薬を飲ませて、また駕籠にゆられて戻って行ったげな。
さて、そん次の日のこつ。
御殿医は下男に、
「おまえ、昨夜(ゆんべ)の病人に薬を届けてこんか」
と言うち、使いに出したっと。
下男は昨夜の道を思い出し思い出し、どんどん歩いて行ったげな。
野原を横切り、峠を越えて、山道を登ってえらい遠道(とおみち)だったげな。
「確かこのあたりだったと思うちょったが……それらしき屋敷はおろか、人の住んどる気配もないとは……はて」
面妖(めんよう)に思うて、周囲(あたり)をきょろきょろ見廻(みまわ)したげなが、すっと、山道のつき当たりに、大けな狐(きつね)の穴があったげな。
下男はフと思い当たることがあって、ソッと、暗い狐の穴をのぞいて見たっと。
「おや、狐が子狐を抱いて座っちょるが。さては、やっぱり昨夜の急病人はこやつの仕業(しわざ)かもしれん」
下男はそう言うち、ゴソゴソ、狐穴(きつねあな)さ入って行ったげな。
穴の中の狐は、下男を見ても逃げんで、ジーッと子狐を抱きしめていたっと。
「こら、おまえはなして逃げんとか」
そげん言うち、母狐の側(そば)へ寄ってみた。
そしたら、母狐の傍(かたわ)らには、昨夜、御殿医が置いていったくすりがあったげなが、子狐はもう死んで、冷たくなっていたげな。
「かわいそうなこっちゃ。おまえは、子供が病気じゃもんで、人間に化けて、この領(くに)一番の御殿医を呼びに来たっか」
と言うち、涙が出るごつあったげな。
あとで御殿医もそん話しを聞いち、
「狐にも母親の情があるわい」
と感心したげな。
米ん団子。
我が子の為に行動した母狐の深い愛情に心打たれました。 最後は悲しい結末でしたが、それが余計しんみりといいお話になっています。 子育て幽霊の話ししかり、親の子を思う気持ちはいつの世も変わりませんね。( 50代 / 女性 )
昔、あったと。鶉(うずら)と狸(たぬき)があったと。 あるとき、鶉と狸が道で出合ったと。鶉が、 「狸どん、狸どん。今日はお前に殿(との)さまの行列を見せてやろうと思うが、どうだ、井ぐいに化けないか」 と、狸にもちかけた。
「母狐」のみんなの声
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