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てんめいのひ
『天命の火』

― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 市原 麟一郎
整理・加筆 六渡 邦昭

 とんと昔、あるところに何代も続いた大きな家があった。
 土佐では、古い家ほど火を大切にして、囲炉裏(いろり)には太い薪(たきぎ)をいれて火種が残るようにしよったから、家によっては何十年も火が続いておる家もあったそうな。

 ある日、この家の主人がおかしな夢を見た。
 それは、しばてんのような、人間とも化け物ともわからんような小坊主(こぼうず)が二人で、
 「この家も、もう古うなったから、何月何日の晩(ばん)に、焼いてしまおう」
と、相談しておる夢だったと。


 あくる日から主人は、家族や奉公人(ほうこうにん)に、特別、火には気をつけるように言いつけ、自分も注意しておったと。
 いよいよ夢に見た、家を焼くという日がやってきた。

 主人は、この日は朝から家族や奉公人にいっさい火を使わせんと、自分は水ゴリをとって、羽織(はおり)はかまで囲炉裏の前に座っておったと。囲炉裏の、この火だけは絶やすことは出来ん。火種を消えないよう程度(ていど)に小さくして、見張(は)っておったと。
 朝も、昼も、何事もなく過ぎて、日が暮(く)れた。家の中は行燈(あんどん)の火もつけんと、真っ暗がりで、ただ、かすかに囲炉裏の火が見えるだけだ。

 夜も更(ふ)けて、もうちっとで日付が変わるという頃(ころ)、主人は、一日の緊張(きんちょう)の疲(つか)れと、やれ無事であったという気のゆるみとで、つい、うとうとぉっとしたげな。

 
 そのとき、天井から、つーと下がってきた一本のクモの糸に囲炉裏の火がつき、火はクモの糸をつたって天井を焼き、またたく間に家じゅうに広がった。

 家の者も、近所の人たちもかけつけて火を消そうとしたけど、主人は、
 「これだけ気をつけちょったに、家に火がつくちゅうことは、天命かもしれん。焼けにゃいかんもんが焼け残り、怪我(けが)人が出ては迷惑(めいわく)がかかる。時節の火にゃ勝てん」
 こう言うて、家具類は何ひとつ運び出さんと、さっぱり、きれいに焼いてしもうたそうな。
 
 むかしまっこう さるまっこう
 さるのつべは ぎんがりこ。

「天命の火」のみんなの声

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