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かたなかじひほう
『刀鍛冶秘法』

― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 市原 麟一郎

 とんとむかし、ある刀鍛冶(かたなかじ)のところへ、兼光(かねみつ)という若い男が弟子(でし)いりしたそうな。
 兼光はまじめに働(はたら)いて、師匠(ししょう)からも気にいられ、何年かすると師匠の向こう鎚(づち)を打つまでに上達(じょうたつ)したと。
 ところで兼光は、なんとかして早く一人前になりたいと思うとったが、師匠がどうしても湯の温度を教えてくれん。刀を打ちあげて、最後に焼きいれをする湯の温度は、刀の質(しつ)を決める大事(だいじ)なことだから、どの刀工(とうこう)も秘密(ひみつ)にして教えてくれん。
 教えるときは、後継(あとづ)ぎを決めたときか、死ぬ前だけだった。

 
 ある日のこと、刀が打ちあがり、最後の焼きいれの準備(じゅんび)に、師匠が湯の温度の調節(ちょうせつ)をした。
 湯舟(ゆぶね)に湯をいれたり、水を加(くわ)えたりしながら、手を湯の中へいれて湯加減(ゆかげん)を計っていたが、そのうちにこれでよしとうなづいた。
 「今だ」
 兼光は右手をさっと湯舟へつっこんだ。そのとたん、師匠は横に置いてあった刀で、抜(ぬ)きはらいに兼光の右手を切り落としてしもうたと。
 兼光は、右手を切り落とされたけど、切られる前に伝わった湯の温度をはっきりとおぼえとった。

 それからあまり日の経(た)たない内に、兼光は切られた右手に小鎚(こづち)をしばりつけて刀をきたえ、やがて、一振りの刀を作りあげてしもうたと。
 師匠はたまげ兼光を亡き者にしようとした。
 兼光を小舟に乗せて海へ流したと。

 
 海へ流された兼光は、波に身をまかせながら、この舟の上で一振りの刀を作りあげた。
 舟で作ったので、これを「波の上浮安(うきやす)」と名付けたそうな。
 兼光を乗せた舟は、ながいあいだ波にただよっていたが、ついに陸(おか)に流れついた。
 兼光はそこに住みついて、刀をきたえたと。
 流れついた所は、備前(びぜん)の国で、ながいあいだ舟に乗っていたので、自(みずか)らを「備前(びぜん)長舟(おさふね)」と名乗ったと。

  むかしまっこう さるまっこう
  さるのつべは ぎんがりこ。

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