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みろくとしゃか
『弥勒と釈迦』

― 鹿児島県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし、大昔(おおむかし)。
 ミロク(弥勒)とシャカ(釈迦)のホトケが、『世(よ)の中』を奪(うば)う争(あらそ)いを起(お)こして、どちらも譲(ゆず)らなかったそうな。争いは長いこと続(つづ)いたと。
 そこで、ミロクのホトケが、
 「おうい、シャカのホトケよう。いつまで争っていてもけりがつかん。どうじゃろ、寝(ね)るとき枕元(まくらもと)に花瓶(かびん)を置(お)いて、花が早く咲(さ)いた方の世の中、ということにしては」
と呼(よ)びかけたそうな。


 「よかろう」
と、シャカのホトケが返事(へんじ)をし寄(よ)こして、相談(そうだん)がまとまった。
 両(りょう)ホトケは、揃(そろ)いの花瓶に同じ花を差(さ)し、各々(めいめい)の枕元に置いて、並(なら)んで眠(ねむ)った。

 真夜中(まよなか)ごろ、シャカのホトケが目を覚(さ)ますと、己(おのれ)の枕元の花瓶の花は未(ま)だ咲いていないのに、ミロクのホトケの花瓶の花がもう美(うつく)しく咲いてあった。こっそり花瓶を取り替(か)えたと。
 世の中は、こうしてシャカのホトケが治(おさ)めることになったと。

 ミロクのホトケは、
 「わしゃ約束(やくそく)は守(まも)る」
というて、立ち去(さ)ろうとした。したが、
 「その前に・・・・・・と、
 人もケモノも、虫も、生きとる者は皆々(みなみな)目をつぶれえ」
というて、すべての者の目をつぶらせてから、火の種子(たね)をどこかに隠(かく)したそうな。


 それから後は、火がまったく無(な)くなったので、いっきに寒(さむ)くなった。生き物たちは、
 「何とかしてくれえ」
 「温(ぬく)めることも出来んで、何がホトケぞ」
というて罵(ののし)った。
 シャカのホトケも寒くてならん。しかし、火種(ひだね)がなくてはどうにもならん。ほとほと困(こま)ってしまった。
 そこで、人やらケモノやら鳥(とり)やら虫やら、生きているありとあらゆるものを集(あつ)めて、
 「誰(だれ)ぞミクロのホトケが火の種子を隠すところを見たものはおらんか」
と訊(き)いた。だが、どれもが、
 「目をつぶっていたので知(し)りません」
と応(こた)える。


 シャカのホトケが困って頭をかかえこんでいたら、隅(すみ)っこにいたバッタが、
 「おらが知っとる」
と進み出た。
 「おらは羽根(はね)で目をおおっていただ。でも、おらの目は下の脇(わき)にある。それで、見るつもりじゃなかっただが、見えてしまった」
 「おお、そうか。お前は見ないのに見えた、そういうのだな。ええ、それでええ。それでミロクのホトケはどこに火の種を隠した。見えたままを言うてみぃ」
 「はい、申しますだ。おらの目が申すには、ミロクのホトケが木と石に火の種を隠すのを見た、と申(もう)しておりますだ」
 「木と石じゃな」
 「はい」
 シャカのホトケが木と木をこすり合わせたら火がおきたと。石と石とを打ち合わせたら、これからも火種がとれたと。


 シャカのホトケは大層(たいそう)喜(よろこ)んで、バッタに、
 「よくぞ見ていてくれた。その礼(れい)にひとついうておく。
 お前が死ぬときは、地面に死(し)んでアリに食(く)われるな。木の枝(えだ)や、草の葉の上に死になさい」
といわれたと。

 この世の中で、嘘(うそ)をついたり、盗人(ぬすっと)がいたり、己を利するために他(た)をおとしめたりする者がいたりするようになったのは、シャカのホトケがミロクのホトケの美しい花の咲いた花瓶を盗(ぬす)んで自分のものにしたからなんだそうな。

  そいぎいのむかしこっこ。

「弥勒と釈迦」のみんなの声

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