― 鹿児島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、竜宮の神さまのひとり娘、乙姫(おとひめ)が病気になったので、法者(ほうじゃ)に占ってもらったと。
法者はムニャラ、ムニャラ占いをやって、
「この病気は、猿の生肝をさしあげなければ、なおる見込みがありません」
というた。
竜宮の神さまは、亀(かめ)を使いに立てて遠い国へ猿をさがしにやった。
亀はさがしにさがして、ようやく、とある島の海辺の岩の上で、海のかなたをながめていた猿を見つけたと。
「猿どの猿どの。お前は竜宮へ行って見たくはないかい」
「いちどは見物してえもんだと思うてはいる」
「そんなら連れていってあげようか」
「ほんとかい、亀どん」
「ほんとさ。俺の背中に抱きついておれば、竜宮までは目(ま)ばたきする間じゃ」
といわれて、猿は喜んで亀の背中に抱きついた。
亀が海の水をひとかきしたと思ったら、いつの間にか竜宮へついていたと。
竜宮では、たくさんのごちそうを出し、魚のきれいどころの舞いなども見せて、しばらくの間、猿を遊ばせたと。
ある日、蛸(たこ)と針河豚(はりふぐ)と猿とが酒を呑んでいたら、酒に酔った蛸と針河豚が、
「ほんとうは乙姫さまに、お前の生肝を差し上げることになっているんだ」
「そうだ。お前の命はながくはあるまいぞ。だから、さあ呑め、今のうちにたくさん呑んでおけ」
「いや、ゆかい、ゆかい」
というて、口をすべらしたと。
猿はゆかいどころでない。びっくりして、ただよりこわいものはないと思ったと。何とか逃げ出す算段をしなくては、と思案した。
「いやぁ、すまないことをした。亀どんに誘われたとき、実は肝をほしているときだったんだ。すぐに帰ると思ったものだから、ほしたままにしてきた」
というた。
そしたら、竜宮の神さまもこれを聞いて、
「肝を島に忘れたとあれば致し方がない。早く行って、とって来なさい」
というて、また、亀と一緒に帰してやったと。
島に着くと猿は岩をつたって高い所へ行った。そして、
「やあやあ、俺の生肝をとろうたぁ、とんでもねえやろうたちだ。生肝を忘れたぁなんぞ、まっかなうそ。第一、肝なんぞとりはずし出来るもんか。そおれ、これでもくらえー」
というて、大きな石を転がし落とした。石は亀の背中に当って、ひびが入ったと。亀の甲らは、これ以来、今だにひび紋様がついたままだと。
亀が竜宮に帰って神さまに報告したら、蛸と針河豚が告口(つげぐち)したことがわかって、その罰として、蛸は骨を抜かれ、針河豚はうちくだかれて、骨が外へばらばらになって飛び出し、いまのように針だらけになったそうな。
そしこんむかし。
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むかし、あるところに和尚さんと小僧さんがおったと。ある秋の日、和尚さんと小僧さんが檀家の法事をすませてお寺へ帰る道を歩いていたと。空は晴れとるし、草花は咲いとるし、道端の石に腰かけて、和尚さん一服した。
むがし、あるところにひとりの若者があって、長いこと雄猫(おすねこ)を飼(か)っていたと。 そうしたところが、この猫がいつもいつも夜遊びをするので、あるとき、若者は猫のあとをつけてみたと。
「猿の生肝」のみんなの声
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