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かっぱとかいがら
『かっぱと貝殻』

― 鹿児島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 かっぱはいたずら好きで、よく夜になると馬小屋にしのびこみ、馬がへとへとになるまで乗りこなすそうな。
 馬が疲れてくると、その馬の尻尾(しっぽ)をしばっていたずらするので、翌日は馬の仕事がいっこうにはかどらず、農家は非常に困ったということだ。

 むかし、むかし。
 薩摩(さつま)の国(くに)、今の鹿児島県薩摩郡(さつまぐん)川内(せんだい)のあたりに、下男(げなん)をおけるくらいのお百姓があったと。
 あるたそがれどき、そのお百姓が田ん甫(ぼ)から家に帰る途ちゅうで、川のほとりにさしかかったら、きみょうな声が聞こえてきた。 

 
 「何だろう」
と、木陰(こかげ)から声のする方をうかがって見たら、たくさんのかっぱが集まって、スモウをとっていたと。
 「やっかいなところへ来てしまったな」
と、つぶやいたら、かっぱに見つかってしまった。
 「やぁやぁ、人間、スモウとろう」
 「とろう」「とろう」
 お百姓は無理矢理(むりやり)引き出されたと。
 いまさら逃げることも出来ないし、かといって、このままかかりあっても、とうてい勝ち目はない。かっぱは頭の皿に水がたまっている間は千人力があるという。どうにかして、頭の皿の水を無くさせるすべはないものか。
 お百姓は、必死に考えた。その内、いい思案(しあん)が浮んだと。

 
 「スモウとるのはいいがのう、わしら人間は、めったなことではスモウをとってはいかんことになっているでのう」
 「鎮守(ちんじゅ)さまの境内(けいだい)でとるのを見たぞ」
 「そうだ、見たぞ」
 「見たぞ」
 「あれは奉納(ほうのう)ズモウとゆうて、神様に見てもらうスモウだ。神様へ奉納する為の練習ズモウならとってもええことになっているがの」
 「なら練習ズモウとろう」
 「練習ズモウをとるには、神様に、これは練習ですとおことわりするしきたりになっている。これは、お前(め)たちみんなにもしてもらわにゃならんが、いいか」
 「いい」「いい」「いい」
 「よし、そんなら、わしと同じことをみんなもしてくれ」 

 
 お百姓は、そういうと、いきなりさか立ちをして、
 「神様、これから練習ズモウをとらせていただきます。
 「さあ、お前たちもやってくれ」
というた。
 かっぱたちは、「いい」といったてまえ、仕方(しかた)なくさか立ちをやったと。
 かっぱたちの頭の皿から水がこぼれ落ちた。
 それを見たお百姓、さか立ちをやめた。
 「さあ、神様におことわりしたから、いつでもとれる」
 頭の皿の水がなくなったかっぱは、力が出ない。お百姓は、みんな投げとばしてやった。
 そして、その中の一匹を捕(と)らえて家に帰ったと。
 かっぱを馬小屋の柱にしばりつけ、下男に
 「ちょっと出かけてくるが、決してちょっかいするなよ」
といいおいて、出かけて行った。


 下男が見張っていたら、かっぱは、ヒュ―、ヒュ―と、奇妙(きみょう)な声でわめいた。あんまりうるさいので、しゃくにさわった下男は、側に置いてあった水桶(みずおけ)の水を、かっぱにぶっかけたと。
 
 かっぱは、頭の皿の水がたまり、千人力になって、縄(なわ)をひきちぎって逃げて行ったと。
 やがて、お百姓が帰ってきて、下男の話しを聞いてびっくりした。
 「それは大変だ。どんな災難(さいなん)を受けるか知れたもんじゃない」
というて、あわびの貝殻(かいがら)を馬小屋の入口に釣(つ)るして、かっぱのくるのを防ぐことにしたと。 
 こうして、災難をまぬがれたというので、今でも、この辺では、貝殻を馬小屋に釣るした家を、ときどき見うけられるそうな。

 ここずいのむかし。

「かっぱと貝殻」のみんなの声

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