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ひとかげばな
『人影花』

― 鹿児島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに貧乏(びんぼう)な婿(むこ)どんがおって、いとしげな嫁ごと暮らしておったそうな。
 そのころはまだ鬼(おに)がおっての、ときどき里に下りてきては悪さをしておったと。
 ある日、婿どんが仕事で遠くへ出掛けたそうな。
 そしたら、そこへ鬼がやって来て嫁ごをさらって行ってしまったと。
 何日かして、婿どんが家へ戻ったら嫁ごがおらん。
 「この仕業(しわざ)は、東の鬼ヶ岳に棲(す)むという鬼のせいにちがいない。こりゃあたいへんじゃあ」 

 
 婿どんは、青くなってさがしに出掛けたそうな。
 川を渡っては、
 「東の鬼ヶ岳を知らんかぁ」
 山を越(こ)えては、
 「東の鬼ヶ岳を知らんかぁ」

 三年たって、ようやく東の鬼ヶ岳に着いたと。
 鬼ヶ岳は、剣(けん)の先っぽみたいな岩が積み重なった、けわしい山だったと。
 婿どんは、なんども落ちそうになりながら、ようよう、山のてっぺん近くにある鬼の館(やかた)に着いた。 
 そして、館の門に立てかけてあった鉄棒(てつぼう)で、地面を三度、ドン、ドン、ドンとたたいてみたそうな。そしたら、何と、館の中からいとしげな嫁ごが出て来ての、夢かとばかりに喜んだと。


 鬼共は、みな、出掛けて、居なかったそうな。
 嫁ごは、婿どんに、
 「これは一年酒、これは二年酒、これは三年酒」
と、酒とごちそうをふるまったあとで、鬼の頭領(とうりょう)が大切にしている宝の刀を持たせての、婿どんを、空(から)のカメの中に隠(かく)まってやったと。 
 ところが、この鬼の館には、アスナロという、不思議な花があって、人間の、男がいれば男花、女がいれば女花が、その人影(ひとかげ)だけ咲いて鬼に報(し)らせるのだそうな。
 
 夜になって、鬼の頭領が手下の鬼どもを従(したが)えて帰って来た。そしたら、男花が一つ咲いている。
 「人間の男が一人いるな」
と、目を光らせてさがそうとしたと。


 嫁ごは、『 ハッ』としたがの、
 「そ、それは、私のおなかに男の赤ん坊ができたからでしょう」
と、すまして言ったそうな。
 鬼どもは、それを聞いて喜んでの、お祝いの酒盛(さかも)りになったそうな。
 嫁ごは、ありったけの酒を飲ませて、鬼どもを、みな、酔(よ)いつぶして寝かせてしまったと。
 「もう、いいよ」
と、嫁ごが声を掛けるとの、婿どんがカメの中から出て来て、宝の刀で、鬼の首を、チョン、チョン、チョンと、みな切ってしまったと。 
 
 婿どんと嫁ごは、鬼の館から宝物を運んで帰り、一生、仲よく 安楽に暮らしたそうな。
 そいぎぃの むかしこっこ。 

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