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おやすてとうちでのこづち
『親棄と打出の小槌』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、あるところに婆様(ばさま)と伜(せがれ)とがあったと。
 その伜が年頃(としごろ)になったので、隣村(となりむら)から嫁(よめ)をもらったと。
 嫁は来た当座(とうざ)は姑婆様(しゅうとめばさま)にもよく仕(つか)えたが、だんだんと邪魔(じゃま)にし出した。そして、あることないこと伜に言いつけるようになった。
 「夫(あに)、夫、婆様は困(こま)ったもんです。身体(からだ)洗わねから、ナジョにもハア汚(きたな)くて、汚くて、臭(くさ)いの付着(うつる)からあちこち触(さわ)って欲(ほ)しくねます」


とか、婆様が寝ながら虱(しらみ)をとって噛潰(かみつぶ)している音を聴(き)き、
 「あれあれ夫、聴こえたべ。婆様はちょっとしか無い米を盗(ぬす)んで、ああして夜昼噛み食(く)っているっす。
 あんな婆様を家さ置(お)いといてはごくつぶしだから、奥山さ連れて行って棄(す)てて来てくれな」
と言うたと。
 伜は初めのうちこそ、そんなことァ言うもんでないと言うていたが、しきりに嫁が言うし、嫁の言うことをきかないと面白(おもしろ)くない事ばかりなので、とうとう、
 「よし、ほんだら婆様を奥山へ連れて行って棄てて来っから」
と言うて、婆様をおぶって奥山へ行ったと。


 嫁は門口(かどぐち)で、夫に、
 「山さ行ったら萱(かや)の小屋を作って、その中さ婆様を入れて、火をつけて来てくれ」
と言うた。夫は、
 「ああ、ええから、ええから」
と言うて行ったと。
 そして、嫁の言う通りに萱を集めて小屋を作り、その中に婆様を入れ置いてから、火をつけて逃(に)げ帰ったと。


 婆様は「アチ、アチチ」と言いながら、燃(も)えている小屋から這(は)い出した。が、這い出してはみたものの、他に行く所も、する事もない。小屋の燃え火にあたっていたと。
 そこから更に奥山では、鬼(おに)たちが、
 「あの火明(あ)かりはなんだあ」
 「誰(だれ)か見てこーい」
と言うていて、鬼の子供等(ら)が五、六匹(ぴき)、ていさつに来たと。すると一人の婆様が火にあたっていたから、鬼の子供等も火に手をかざしてあたったと。

 
親棄と打出の小槌挿絵:福本隆男

 そうして、チラチラと婆様を見ると、婆様の内胯(うちまた)が気になった。皆して不思議(ふしぎ)そうに覗(のぞ)いて見て、
 「婆様、婆様、そこは何だ」
と、聞いた。婆様、
 「ああこれか、これは鬼の子供を食う口だ」
と言うと、鬼の子供等は魂消(たまげ)て騒(さわ)いだと。

 
 そのさまを見た婆様、わざと大胯(おおまた)を広げて、
 「さァ餓鬼(がき)ども、捕(と)って食うぞお」
とおどかした。
 子鬼(こおに)等は、
 「婆様、許して」
 「その代(か)わりこれをやる」
と言うて、打出(うちで)の小槌(こづち)を差し出したと。
 婆様、
 「そうかえ、そんならまあ、捕って食うことばかりは許(ゆる)してやろうかえ」
と言うと、子鬼等は、やれよかったと胸なぜおろして奥山へ帰って行ったと。


 婆様は、打出の小槌で、
 「さあさあ、ここさ千軒(せんげん)の町が出ろ」
と言うて、トンと地面を打ち叩(たた)くと、ぞろりっと千軒の町が出た。婆様はその町の真ん中へ行って、また、
 「ここさ、大きな館(やかた)ア出ろ」
と言うて、トンと地面を打ち叩くと、たちまち大きな館が出た。それから、人だの馬だの酒屋(さかや)だの木綿屋(もめんや)だの、いろいろな店を打ち出して、婆様はその町の女殿様(おんなとのさま)になった。
 ある日、伜夫婦(ふうふ)は元通りの貧乏(びんぼう)なままで、痩馬(やせうま)に薪(たきぎ)をつけて、この町へ売りにきたと。
 「木売ろ、木イ売ろオ」
と呼んで、町一番の立派(りっぱ)な館へ行って、女殿様を見ると、なんと、それは先達(せんだ)って自分たちが棄てた、家の婆様であった。


 嫁は「あの婆(ばんば)だがア」と腹を立てて帰ったと。そして、夫に、
 「おれも婆様のようにあんなに立派な館に住みたい。おれもあんなに立派な女殿様になりたい」
と言うて、せがみたてたと。夫は仕方(しかた)なく、
 「そんだら、婆様のように奥山さ連れてってやる」
と言うて、嫁を背負(おぶ)って、婆様とは別の奥山へ連れて行った。萱を集めて小屋を作り、嫁をその中に入れ置いて、火をつけた。
 嫁は焼け死んだと。

  どんとはらい。

「親棄と打出の小槌」のみんなの声

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