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じいはじっとしとれ、ばあはばーっとしとれ
『爺はじっとしとれ、婆はバーッとしとれ』

― 兵庫県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔むかし、ある所に爺さんと婆さんがおったそうな。
 爺さんは毎日山へ木ィ伐(き)りに、婆さんは川へ洗濯(せんたく)に行っていたと。
 あるとき、爺さんが山で飯食(ままく)おうと切り株に腰かけたら、「チッ、チッ」と鳥が啼(な)く。
 「どこで啼くじゃろ」
といって、あたりを見わたして探(さが)してみたが鳥は見あたらん。
 「近くで啼いたようだったがな。まあ飯食うじゃ」
といって、飯食いかけたら、また「チッ、チッ」と啼いた。
 「ありゃ、尻(しり)の下で聞こえた」 

 爺さんが腰掛けていた切り株を見たら、穴があった。そこへ手を入れたら小鳥が手にさわった。やんわり握(にぎ)って出してみたら雛(ひよこ)だった。


 「放(ほお)ってぇたら死ぬるなあ」
 爺さんはその雛を持って家に戻った。
 「婆さん、ええ物(もん)拾うて来た。これを見ぃや」
 「あら、まんたヒヨコじゃのう。どなぇしたじゃぇの」
 「うん、飯食おうと腰かけたら、切り株の中におった。放ってぇたら死ぬるから拾って来たわいや。面倒臭(めんどうくそ)うても飼(こう)うちゃろいや」
 「ふん、飼うちゃるとも、私等(うらら)ぁにゃぁ子が無ぇじゃし、可愛ぇがっちゃるがの」
というて、ふるいを伏せて飼(か)ってやったと。 飼っているうちにだんだん大きくなって、ふるいではせまっくるしくて飼えなくなった。
 で、二人は相談して、元の山へ放してやることにした。
 
 二人で木ィ伐り山のふもとへ行って、
 「小鳥ぃやぁ、うちゃぁ貧乏で鳥籠(とりかご)はなし、放ぇちゃるで好きなとこへ行(い)て大きゅうなれ」
というて放してやった。


 そしたら小鳥は、はじめは飛び方もおぼつかなくて、婆さんの頭にとまったり、爺さんの肩にとまったりしていたが、ようやく山の中へ飛んで行ったと。
 「チッチがいのうなったら、なにやらさみしゅうなったわいや」
 「私(うら)も」
といいあって、こ半月(はんつき)たったある日、軒先(のきさき)へ小鳥が飛んで来て、
 「爺は木ィ伐り山でじぃっとしとれ。婆は洗濯川でバァーとしとれ」
というて啼いた。
 爺さんと婆さんは、何のことをいうているのかようわからなかったが、可愛がっていたチッチがそういうのだからというて、二人とも小鳥の言う通りにしたと。
 
 爺さんが山でじいっとしていると、兎(うさぎ)が出てきて、着物の前からちょろっとのぞいているチンチン山芋(やまいも)と間違えて、股の間に入って来た。爺さん、そいつをつかまえて戻ったと。

 
 婆さんが川で股ァ拡(ひろ)げていたら、鰻(うなぎ)や鯰(なまず)や鮒(ふな)が、なんぼでも寄って来るので、そいつを捕まえて戻った。

 二人は、それらを売って金持ちになったと。

 
 そしたら、それを見た隣(となり)の欲張(よくば)り婆さんが、やってきて、
 「お前(め)ぇらぁ、なしてそなぇ分限者(ぶげんしゃ)ぇなっなんじゃぃや」
ときいた。無欲な爺さんと婆さんは、
 「実は、こうこうこうじゃ。お前ぇらぁも私らぁの代りぃ行ってみぃや」
と教えたと。
 そしたら隣の欲張り婆さん、転げるように家に帰って、
 「爺あん、隣ぁこうこうで銭ぃ儲けたが、明日からぁ代ってもろうたで、行ってみよう」
 「うん、そりゃぁぼろい話じゃ。行ってみよう」
ということになったと。
 

 
 ところが話ぃ聞き違えたもんで、行くとこが爺さんと婆さんがあべこべになった。
 爺さんが洗濯川で股ぁ拡げていると、スッポンがチンチンの先ぃ食いついて、
 「痛ぇわいや、痛ぇわいや」
 いうて泣いて戻るし、婆さんが山で股ぁ拡げていると、蛇(くちなわ)やマムシがニョロニョロ寄って来るもんだから、
 「やれおとろしや、やれおとろしや」
というて泣いて戻るで、欲張りな二人は泣きながら
 「もう無理な欲ぁすまえ」
というたと。

 いっちこたあちこ。

「爺はじっとしとれ、婆はバーッとしとれ」のみんなの声

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