恋はいつの時代も命を投げ出すほどの力があるんだなと思った( 10代 / 女性 )
― 群馬県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
むかし、上野(こうずけ)の国、今の群馬県(ぐんまけん)の榛名山(はるなさん)のふもとに立派(りっぱ)な館(やかた)があった。
館にはひとりの可愛らしい姫がいて真綿(まわた)でくるまれるように大切に育てられていたと。
この姫はまだ小(こ)んまいときから榛名山を眺(なが)めるのが大好きだったと。朝には朝焼け、夕(ゆうべ)には夕焼け、日昏(ひぐ)れては墨絵(すみえ)のような山影を眺めていつまでも動こうとせんのだと。
年頃になってからは一層(いっそう)山を眺めては物思いにふけり、ときには涙ぐみさえするようになったと。
館の主(あるじ)は、そんな姫を見るたび心をいため、よい夫(おっと)がいたならあるいは、と思うていろいろ縁組(えんぐみ)の話を持ちかけるけど、姫はそんな話には振り向きもせん。それどころか、
「榛名湖(はるなこ)に映(うつ)る榛名山は、とても美しいと聞きました。いちど湖に行ってみたい」
というた。それからは明けても暮れても、
「榛名湖へ行きたい。榛名湖へ行かせて」
というようになったと。
館の主は、とうとう姫を榛名湖へ行かせることにしたと。
立派な駕籠(かご)が用意され、お供の腰元(こしもと)たちも選ばれた。そしてある日、花咲く山道を姫の一行(いっこう)は登っていったと。
やがて、湖のほとりへ着いた。
駕籠からおりた姫は、静かに山を仰(あお)ぎ、湖に映(は)える榛名山を見つめていたと。しばらくそうしていたが、そのうち岸辺(きしべ)に下りていって、そのまま水の中へ入って行ったと。
それがあまりにさりげなかったので、お供の者たちはどうすることも出来なかった。
姫は、みんなの前で湖の底深く沈んでしまったと。
突然、ごぉっと風が吹き、山の木々が騒いだ。みるみる黒雲が湧(わ)いて激しい雨が落ちてきた。湖が泡立ったと。
お供の者たちは、口々(くちぐち)に姫の名を呼び岸辺を右へ左へ走っていたが、そのうちにひとりの腰元が、
「姫さまぁ」
と叫(さ)かんで湖へ飛びこむと、他の腰元たちも次々に飛びこんで行った。
湖に沈んだ腰元たちは蟹(かに)になったと。
それから長い長い歳月(さいげつ)が経(た)ち、いつしかこの蟹を”腰元蟹(こしもとがに)”と呼ぶようになった。
腰元蟹たちは、今でも水底(みなぞこ)の藻(も)や、沈んだ落ち葉をかきわけかきわけ姫を捜(さが)しているのだと。
腰元蟹が湖をきれいに掃除(そうじ)するので、榛名湖の水はいつも澄んでいるのだそうな。
おしまい。
恋はいつの時代も命を投げ出すほどの力があるんだなと思った( 10代 / 女性 )
そんなことがあったんだなぁ、初めて知りました。びっくり‼️( 10代 / 男性 )
知らなかったのでびっくりしました。( 10代 / 女性 )
聴いたことある( 10代 / 男性 )
知らなかった
いい物語だった!
小さい頃、榛名湖でスケートやわかさぎ釣りをしたことがあります。あの湖にこんな悲しい昔話があったんですね!( 50代 / 女性 )
おもしろかった!( 20代 / 女性 )
むがし、むがし。秋田ど山形の間ば状箱担いで走る飛脚いだった。ほの飛脚だば、秋田の殿様の書状ば持って走って山形さ行き、山形の殿様の返事ばもらって、走って秋田さ戻る。朝が秋田で昼が山形、夕方にはまた秋田ていうよだな。一日で往復してしまうけど。
「榛名湖の腰元蟹」のみんなの声
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