― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔々、あったず。
あるどごにとても貧乏(びんぼう)でその日暮らしをしている駄賃(だちん)づけがあったず。
あるどき、遠くへ行っての戻り道で乞食(ほいと)に行き合ったど。雪コァ降ってるし、あんまり見すぼらしいので、
「お前(め)、どこさ行ぐどごでえ」
と聞いだど。乞食は、
「お前の村の旦那様(だんなさま)のどごさ行くどごだ」
と言う。
「そこだば、まだまだ遠ぇや。馬さ乗れ」
ど言ったら、
「おれみたいなの、申しわげなくて、乗れねえ」
と言う。
「おれぁ、人を乗せて馬ひいて歩くの慣れでるし、こたな雪コァ降ってあ、ゆるぐねえだ。おらほさ泊まって明日行ぐべし。乗れ」
ど言ったら、
「へだら、そうすがな」
と言っで、馬さ乗って駄賃づけの家さ行ったど。家さ着いだら駄賃づけは、女房さ、
「今日かせいだ駄賃で米コ買って来るへで、米コたいて出して、温(ぬく)めて泊めろ」
ど言ったど。
挿絵:福本隆男
朝になったけゃ、乞食ぁ、昨日の礼言って、
「実はおれぁ、人でねぇ。疫病神(やくびょうがみ)だ。あそごの旦那様ぁ、銭貸したの無理矢理取ったりして、人情ねえ人だで、急の中気(ちゅうき)病みにして寝こましてやろうど思っで来たんだ。お前に、それを治すおまじない教えるがら、おれと一緒に行ぐべ。まじないは、
〽 おんころころまどうげ
あびらうんけんそわか
って、三回言えばええ」
と言ったど。
駄賃づけと疫病神と二人して旦那様の家さ行ったど。
そこさ着いたら疫病神、ぱっと見えなぐなったど。
駄賃づけぁ、銭借りる振りして入って行ったら、そごの旦那ぁ、囲炉裏(いろり)の横座(よこざ)さ寝まっていだど。
駄賃づけぁ、
「すぐ年取りになるへで、なんぼが銭コ貸して下せぇ」
と言ったら、旦那ぁ、
「貸へねえ」
と言った。駄賃づけぁ、
「ありがとうがんす」
と言っで、帰って来たど。
駄賃づけが帰ったあど、旦那ぁ熱ぁ出て、手はふるえる、声もふるえるで、大騒ぎになったど。医者を何人も頼んだども、一向に熱ぁ下らながったず。
駄賃づけぁ、次の日もまた銭借りるふりして行ったけぁ、旦那様、見えながっだど。
「旦那様、どっちゃ行ったえ」
と聞いたら、家の者が、
「昨日がら急に熱ぁ出る、よだれは出る、からだぁふるえるで、医者様頼んでも治らねえで、寝でら」
と言っだど。
そごで、
「効ぐだかどうだが分からねえどもせぇ、おれぁ、まじねえ覚べえでら」
と言ってみだら、
「へだら、まじなっでみで呉(け)ろ」
ど頼まれだど。そこで駄賃づけぁ、疫病神がら教わったまま、
〽 おんころころまどうげ
あびらうんけんそわか
ど、三回言ったけゃ、旦那の熱ぁ段々に下がって良ぐなったず。
これが評判になって、皆してまじなってもらうようになっだど。
駄賃づけはぁ、だんだんに良(え)え暮らしするようになったず。
これ聞いで どっとぱれぇ。
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むかし、あるところにお寺があって、その門前に貧乏(びんぼう)な夫(とど)と嬶(かか)が暮(く)らしておっだど。 あるとき夫が遠くへ旅に出掛(か)けたど。そして、とある長者どの家さ、金持ちになる弟子にして呉(く)ろと頼(たの)んだど。
「疫病神と駄賃づけ」のみんなの声
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