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ほとけをやいたかりゅうど
『仏を焼いた狩人』

― 鹿児島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、ある山間(やまあい)に一軒(いっけん)の家があって、男と女房(にょうぼう)とが暮(く)らしていたと。
 家の前の道を、ときどき、猟師(りょうし)たちが猪(いのしし)だの熊(くま)だの獲物(えもの)を担(かつ)いで通ったと。
 男は猟師ではなかったが、
 「俺(おれ)もいつかあんなのを射(い)止めてみたいものだ」
と思うていた。
 山に雪が降(ふ)った。男は、
 「あたり一面白ければ獲物が見つけ易(やす)いな」
というて、鉄砲(てっぽう)持って山に入ったと。


 獲物を探(さが)してあっち行き、こっち行き、山の奥(おく)へ奥へと分け入った。
 大きな獲物は見つからなかったが、ようやく兎(うさぎ)を一羽射止めた。
 「初めての猟だからなぁ、ま、これでよしとするか」

 男は雪の上に残っている足跡(あと)をたどって帰り始めた。歩いても歩いても、周囲(あたり)は見たことのない山景色。
 「夢中になって、さても奥入ったもんだ。まぁだ、だいぶんありそうだな」
というていたら、雪が降ってきた。
 「急がにゃぁ。せめて見知った所まで行きつかにゃぁ」
というて急いだと。


 歩いて歩いて歩いて、雪も、降って降って降って、とうとう足跡がわからなくなった。おまけに日が暮(く)れた。男も疲(つか)れたと。
 「どっか、木の洞(うろ)にでも泊(と)まらにゃ」
と探していたら、古い小さなお堂があった。
 「へぇ、こんな奥山に」
といぶかりながら、そこに泊ったと。
 泊ったところが、隙間(すきま)風が寒くてならん。
 何か焚(た)いて温もりたいのだが、外の木々はぬれていて火が着かん。さてどうしたものかと思案していたら、お厨子(ずし)があって、その中に木彫(きぼ)りの仏(ほとけ)様が納(おさ)まってあった。
 「仏様、ご免(めん)して下さい」
 男は掌(て)を合わせてから、その仏様とお厨子を燃やした。その火で兎も焼いて食べたと。
 夜が明けて、男は、どうにかこうにか家へ帰れたと。


 その夜のこと。
 男は寒くて寒くて、歯をカチカチ鳴らせてふるえた。女房が汗(あせ)をかくくらい囲炉裏(いろり)の火を焚いたが、男は少しも温もらんのだと。男は火のそばで布団(ふとん)にくるまって寝(ね)たと。
 しばらくたって、女房が、
 「あんたぁ、温うなったかぁ」
といいながら、男を見たら、男は息をしていなかった。死んでいたと。
 女房は、泣いて泣いて泣いて、泣き明かした。

 朝になって女房は、死んだなら葬式(そうしき)をしてあげにゃならんと気がついた。棺桶(かんおけ)を作って、その中に男を入れようとて、こっち持ちあげ、あっち持ちあげしていたら、男が、
 「ああ」
と、声をもらした。
 「この人は死んじゃおらん。息を吹(ふ)き返したぁ」
というて、驚(おどろ)くやら喜ぶやら。


 目を覚ました男は、
 「暗い道を歩いていた。寒くて寂(さび)しい道だった。とぼとぼ歩いて行ったが進んでいるやらいないやら。そのうちに向こうに火が見えた。ふたつ。俺は向こうへ行っているみたいだし、火はこっちへ来るみたいだ。火と俺がぶつかった。熱くはなかった。火も俺も止まったままだ。俺もそこから動かん。火もそこから動かん。突然(とつぜん)火の中から赤鬼(あかおに)と青鬼(あおおに)が出てきた。そして、それぞれが持っている金棒(かなぼう)を『握(にぎ)れ』という。握ったら手が焦(こ)げた」
というた。

 女房は男の手を見た。男の掌(てのひら)が両方とも真っ黒に焦げていたと。
 
 そしこんむかし。
 
 

「仏を焼いた狩人」のみんなの声

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