駄賃付も奥さんも、見返りを求めないで親切にしているのがいい。疫病神が福の神になってしまったのも面白いですね。( 50代 / 男性 )
― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔々、あったず。
あるところに、とても貧乏(びんぼう)で、その日暮らししている駄賃付(だちんづけ)あったと。
あるとき、駄賃付が馬をひいて歩いていたら、みすぼらしいかっこうの乞食(ほいと)と出会った。
駄賃付が乞食に、
「お前(め)え、どこさ行く」
と聞いたら、
「町一番の旦那のところさ行ぐどごだ」
という。
「あそこは、まだまだ遠い。馬に乗れ」
「いやぁ、おれみたいなの、馬なんぞ、申しわけなくて、乗れねえだ」
「なんの、なんの。人なんてみんな同じだ。おれぁ人を乗せる馬ひいて歩いてるし、こんな雪降(ふ)ってたら、歩くのもゆるくねぇべ。おら家さ泊(と)まって、明日行けばいいさ」
「申しわけない」
「なんのなんの」
て、馬に乞食を乗せて家に連れ帰ったと。
挿絵:福本隆男
駄賃付は女房(にょうぼう)に、
「今日の駄賃(だちん)で米買(こ)うて来る。あの人へ、温(ぬく)い飯(まま)食わせてやってくれ」
ていうて、米買いに行き、女房はそれを炊(た)いて乞食をもてなした。
次の朝、乞食は、
「おれ、こんなにもてなしてもらったの初めてだ。何かお礼をしたい」
というた。駄賃付と女房、
「そんなのいらね」「ンだ」
と、いうたら、乞食は
「おれぁ、こんななりをしているが、実は人ではねぇんだ。疫病神(やくびょうがみ)だ。だから遠慮するな。
挿絵:福本隆男
これから行く、あそこの旦那(だんな)な、あいつは強つくで、銭(ぜに)貸したの無理して取ったりして、人情のかけらもねえ人なんだ。だから、命に災(わざわ)いする病(やまい)を持って行くとこだった。
お前に、その病を治す“まじない“を教えるから、旦那が病気になったら、その“まじない“で治してやって、お礼をもらえ。
まじないは、こうだ。
『おんころころまどうげ あびらうんけんそわか』
これを三回となえれば治る」
というて、ペカッて、姿が消えたと。
その日のうちに、町一番の旦那は大熱(おおねつ)出て、床(とこ)についた。
医者様(いしゃさま)よんだけど一向(いっこう)に熱が下がらん。原因(わけ)も分からん。医者様に、
「今晩(こんばん)か、明日が峠(とうげ)」
といわれて、旦那の屋敷(やしき)は大騒(おおさわ)ぎだ。
駄賃付は、わざと、次の日の朝、旦那の家を訪(たず)ねた。使用人に
「旦那さまの熱のことを人から聞いて、心配で訪ねてきただ。どんなあんばいだべか」
と聞いたら、使用人は、
「もうだめらしい」
という。駄賃付が、
「そうか。おれ、まじない唱(とな)えられる。効くだかどうだか分からねぇども」
というたら、その使用人が、
「ちょっと待ってれ」
というて、あわてて家の奥へ走って行った。
奥さまという人が出てきて、
「まじなって下さい」
というた。
駄賃付が旦那様の枕元(まくらもと)へ連れて行かれたら、旦那さまは、青い顔して、息も絶(た)え絶えだったと。
そこで、疫病神から教わったように、
「おんころころまどうげ あびらうんけんそわか」
と三回となえた。
挿絵:福本隆男
そしたら、たちまち旦那さまの熱が下がり、青かった顔に赤みがさし、あれ、あれ、いうている間(ま)に旦那さまは床から起きあがったと。
駄賃付は、町一番の旦那さまから、たくさんのお金やら品々(しなじな)をもらった。
この話があちらこちらに広まって、皆、駄賃付にまじなってもらうようになった。
貧乏だった駄賃付と女房は、人からはたよりにされるし、だんだんと福々しくなって、一生安楽(いっしょうあんらく)に暮らしたと。
どっとはれ。
駄賃付も奥さんも、見返りを求めないで親切にしているのがいい。疫病神が福の神になってしまったのも面白いですね。( 50代 / 男性 )
むかし、あるところに子供のおらん爺(じ)さまと婆(ば)さまがおった。 爺さまは、毎日山へ柴(しば)を刈(か)に出かけたと。 ある日のこと、いつものように山で柴を刈っていると、のどが乾(かわ)いた。
「駄賃付と疫病神」のみんなの声
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