弘法様は、人を見た目で判断して扱いを変えてはいけないということを身をもって教えてくれたということですね。( 40代 / 女性 )
― 山梨県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、ある冬の日のこと、ある村に一人の旅のお坊さんが托鉢(たくはつ)に来たそうな。
身(み)にまとっている衣(ころも)は、色が褪(さ)め、裾(すそ)は裂(さ)けて、それが寒風(さむかぜ)にはためいていたと。
お坊さんは、一軒(いっけん)の大きな家の玄関口に立って、鐘(かね)を鳴らしてお経(きょう)を読みはじめた。
家の主人が出てみると、まるでみすぼらしい坊さんだ。
「ふん、乞食坊主(こじきぼうず)か、うちにはやるものは何もない。読経御無用(どきょうごむよう)、お通りなさい」
と、木(き)で鼻(はな)をくくるように言うて、ピシャンと戸を閉めてしまったと。
お坊さんは、黙(だま)ってそこを立ち去ったと。
次の日、同じ家の玄関口に、今度は錦襴(きんらん)の袈裟衣(けさごろも)を着た立派なお坊さんが立って、鐘を鳴らしてお経を読みはじめたと。
家の主人が出てみると、今日は、どこの何様かと思うような立派なお坊さんが立っている。主人をはじめ、家中の人達がありがたがって、
「どうぞ、うちへ上って下され」
「どうぞ、もっとお経を読んで下され」
と、口々に言うて、手もみするのだと。
袖を引かれるようにして座敷に上ったお坊さまの前に、皿へ山のように盛られた、ボタ餅(もち)が出されたと。家の主人が、
「どうぞ、召(め)し上(あが)って下され」
と言うたら、お坊さんはボタ餅を手にとって、キラキラ光る錦襴の衣(ころも)へ、ベタベタとなすりつけたと。
家の人達があっけにとられているうちに、お坊さんは、取ってはなすり、つかんではなすり、出されたボタ餅をみんな、立派な袈裟衣へなすりつけてしまったと。
家の主人が、やっと気をとりなおし、
「何をなさる、せっかくのボタ餅をもったいない。その上、その立派なお衣を汚(よご)してしまうのは、まっと惜(お)しいこんじゃないか」
と、目を三角(さんかく)にして言うたと。
するとお坊さんは、
「昨日来たときは、何一つ寄進(きしん)されず邪見(じゃけん)に追い帰された。昨日のわしも、今日のわしも、わしはわし。
違うているのは身にまとうている衣だけじゃ。してみると、お前達は、このボタ餅をわしにくれたわけではあるまい。わしの着ているこの衣にくれた事になる。だから、ボタ餅はみんな、衣に食わせてやったこれでよかろう」
こう言うと、ひょうと立って、帰って行ったと。
お坊さんは、諸国(しょこく)を巡(めぐ)って歩いていた弘法大師様であったと。
それも それっきり。
弘法様は、人を見た目で判断して扱いを変えてはいけないということを身をもって教えてくれたということですね。( 40代 / 女性 )
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むかし、あるところに、三人の息子を持った分限者がおったと。あるとき、分限者は三人の息子を呼んで、それぞれに百両の金を持たせ、「お前たちは、これを元手にどんな商いでもええがらして来い。一年経ったらば戻って、三つある倉の内をいっぱいにしてみせろ。一番いいものをどっさり詰めた者に、この家の家督をゆずる」
「弘法様の衣」のみんなの声
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