素朴な民話、子供の頃にも、何度か聞いた話ですが、不思議と、涙がこぼれました。( 70代 / 男性 )
― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、むかし、
あるところに、爺(じい)さんと婆(ばあ)さんが住んでおったと。
家が貧乏(びんぼう)で、年取りの夜(よ)さになっても、一粒(ひとつぶ)の米がなかったと。爺さんが、
「婆さん、もう年取りの夜さじゃが、どんげして年をとろかい」
というたら、婆さんが、
「爺さん、雨の時かぶる“ばっちょ笠(がさ)”があったがよ。あれを町へ売りに行ったら」
と、いうた。
そこで爺さんはばっちょ笠を六つ持って、町へ出かけたと。
「ばっちょ笠はいらんかえ」
「ばっちょ笠はいらんかえ」
爺さんは、声を張(は)り上げて、売り歩いた。
が、年の暮れに、ばっちょ笠を買うような家はなかった。ひとつも売れなかったと。
だいたいばっちょ笠は夏のもので、寒い冬の師走(しわす)に買うものではないのだと。
爺さんが、とぼらとぼら村へ帰りよったら途中で雨が落ちはじめた。
村の入り口の辻(つじ)まで来たら、雨はザアザア降(ふ)ってきたと。
「ありゃりゃ、六地蔵(ろくじぞう)さんが雨にぬれちょる。もぞなぎいが(かわいそうに)」
爺さんは、そういって、売れなかったばっちょ笠を、ひとつ、ひとつ、六地蔵さんの頭にのせてやったと。
「ばあさん、いまじゃった」
爺さんが家に入ると、婆さんが、
「ばっちょ笠は売れたかいね」
と聞いた。
「なあに、今頃ばっちょ笠どん買う者(もん)がおろか。戻(もど)りに、六地蔵さんが雨にぬれちょったので、みんなかぶせてくれたが」
「そうかい、そうかい。爺さん、それはよいことをしてくだされた」
婆さん、気落(きお)ちするかと思いきや、喜んでくれたと。
その晩はからいもを焼いて食べ、寝(ね)たと。
そしたら夜中になって家の外で、
「ホーイ、ホーイ。
じいどん、じいどん。
地蔵の笠賃(かさちん)持ってきた。
地蔵の笠賃持ってきた。」
と、誰(だれ)かがおらんでいる声がする。
「爺さん、おもてで、なんか声がする」
婆さんと爺さんが耳を立てていると、おもての戸が、がらがらと開(あ)いて
「じいどん、じいどん。
地蔵の笠賃じゃ
地蔵の笠賃じゃ」
といいながら
じゃらじゃらじゃら
じゃらじゃらじゃら
いわして、金ぴかの小判を投げ込んだと。
「婆さん、婆さん、六地蔵さんが笠賃じゃげな」
爺さんと婆さんは、手をとりあって、楽しく年取りの夜さを越(こ)したと。
正直にゃ徳(とく)があるげな。徳は得じゃげな。
もしもし米ん団子、早う食わな冷ゆるど。
素朴な民話、子供の頃にも、何度か聞いた話ですが、不思議と、涙がこぼれました。( 70代 / 男性 )
宮崎市出身・現埼玉:子供の頃「ばっちょ傘」って言ってました。^^v( 70代 / 男性 )
熊本を離れて半世紀がたちました。今朝かたづけをしていたら、以前子供がベトナム旅行の土産で買ってきた、ベトナムの農民が被る傘があって、「そういえば『ばっちょがさ』ってあったよな」とふと思い出し、ネット検索したら、この昔話がありました。大分の方言は熊本と似てますね。( 70代 / 男性 )
むかしがひとつあったとさ。 あるところに、貧乏(びんぼう)じゃったが、それは仲のよい爺(じ)さまと婆(ば)さまが暮(く)らしておった。 年越(としこし)の日がきても何一つ食べるものがない。
「大分県の笠地蔵・ばっちょ笠」のみんなの声
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