― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、むかし、あるところに貧乏(びんぼう)なトトとカカがおったと。
ある節分(せつぶん)の夜のこと、あちこちの家では、「鬼(おに)は外、福は内」って豆まきが始まったと。
そしたらトトは、
「おら家(え)も毎年、『鬼は外、福は内』って言うども、あいかわらずの貧乏所帯(びんぼうじょたい)だ。どう言うても変わりねえなら、今年はちいっと、風変りにやろうかい」
言うて、
「福は外、鬼は内。福は外、鬼は内」
と、でっかい声で呼ばって豆まきしたと。
そしたら、あっちからこっちから、赤鬼や青鬼どもが鉄棒(てつぼう)かついで、
「痛(い)てて、痛てて」
「ありがたや、ありがたや」
言うて、逃げ込んできた。
「トト、カカ、お前(め)たちだけだ、鬼は内ゆうて、俺(おれ)たちを呼ばってくれたのは。ありがたかったぁ」
「ほんに、ほんに。見てくれ、俺のこのアザを。熱っちい豆をぶつけられて、ヤケドだらけになっちまったい。おお痛で」
と、口々(くちぐち)に言うんだと。
トトとカカは魂消(たまげ)て魂消て、へなへなって土間にへたりこんだままで「あわわわ」言うとる。
鬼は、そんなトトとカカをひょいとつかんで、囲炉裏端(いろりばた)にペタンと座らせたと。
「おどろかしてすまね。トトとカカは俺たちを呼ばってくれたんだ。とって食わねから心配しないでええ」
トトとカカは、それ聞いてやっと安心したと。
「トト、カカ、俺たち、逃げまわってのどが渇(かわ)いた。酒を御馳走(ごっつおう)してくれんか」
「俺はヤケドの薬だ」
と言うもので、カカはやっとのことで、
「おらちは貧乏だで、何もねえのだ」
と言うたと。そしたら、赤鬼と青鬼が一匹(いっぴき)ずつ、フンドシをはずしてトトに渡した。
「このフンドシを持って、金に替(か)えて、歳(とし)とり酒と、歳とり肴(ざかな)を買ってきてくれ」
トトは赤いフンドシと青いフンドシを持って質屋(しちや)へ行った。
番頭(ばんとう)は鬼のフンドシを手に取ってつくずく見おったが、奥へ入ったっきり、なかなか出てこない。
トトが心配しているところへ、番頭がようやく戻(もど)ってきた。
「主人(しゅじん)と相談したども、そう沢山(たくさん)は貸(か)してやれない」
「どれくれえ、貸してもらえるだろか」
「千両(せんりょう)よりは貸せらんねえが、ええかのう」
トトはたまげてしもうた。
千両の金を背負ったトトは、帰りに酒と肴と米、醤油(しょうゆ)、味噌(みそ)をしこたま買って戻ったと。
鬼たちはゴッツオを食べて、酒を呑(の)んで、フンドシをほどいて、皆々フリチンで踊(おど)ってばか騒(さわ)ぎしたと。
その騒ぎを隣の爺(じ)さが聞きつけて、
「隣では、何ごとがおこったやら、バカに賑(にぎ)やかだども」
言うて、のぞきにきた。
そしたら、フンドシをはずした赤鬼や青鬼が、トトとカカと一緒に踊っているんで、もっとよく見ようと家の中に入りかけた。
トトが、
「そこへきたのは何者だあ、酔(よ)っぱらいか」
と聞いたら、隣の爺さは、
「わしゃ酔っぱらいでねえ、正気(しょうき)だ」
と言うた。
それを聞いた鬼どもは、魔物退治(まものたいじ)で有名な鐘馗様(しょうきさま)がきたと思うて、
「鐘馗がきたんじゃ、こうしてらんねえ」
言うて、フンドシや鉄棒を置いたまま、裏口(うらぐち)からあわてて逃げて行った。
トトとカカは、鬼のフンドシと鉄棒を売って、大金持ちになったと。
いちがさけ申した。
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昔、あるところに、それはそれは豪胆(ごうたん)な百合若大臣(ゆりわかだいじん)という武将(ぶしょう)があったと。百合若大臣は、ひとたび眠れば七日間も眠り続け、起きれば七日間も起き続けるという人であったと。
昔、駿河(するが)の国、今の静岡県の安倍というところに、亭主(ていしゅ)に死なれた母親と二才の赤ん坊がおったそうな。母親は、毎日赤ん坊をおぶってはよそのお茶摘みを手伝って、やっと暮らしておったと。
「節分の鬼」のみんなの声
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