自分もよく親と言い争いになってしまうことがあるけど、もっと阿呆になって自分の非を認め、迷惑をかけないようにしていこうと思えるいい話でした。( 10代 / 男性 )
― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
とんと昔あったっつうわ。
昔、あるところに、家が隣(とな)りあってあったと。一軒(けん)の家は夫婦喧嘩(ふうふげんか)が絶(た)えない家で、もう一軒は夫婦喧嘩の無い家だったと。
あるとき、隣の夫が用あって訪(たず)ねたら、まぁた喧嘩をしとった。
「お前ら、また喧嘩か。お前ん家(ち)は利口者(りこうもん)揃(ぞろ)いだから、いっつも喧嘩になるんだな。俺(おれ)ん家は阿呆(あほう)揃いだから喧嘩がない」
「なんだぁ、俺ん家が利口者揃いで喧嘩。お前ん家が阿呆揃いで喧嘩が無い。そりゃあ一体どういうことだ」
「そりゃあこうだ。お前ん家は、なにか悪いことがあったら、俺じゃあない。私(わたし)じゃあないと、二人ともいい者になろうとする。それでいっつも喧嘩になるのだろうが。俺ん家なんぞ、何か悪いことがあったら、俺が阿呆だから、いや私が阿呆だからというて、二人とも悪者になろうとする。それで喧嘩にならんのよ。
例えばじゃ、土間で茶瓶(びん)をひっくり返したら、ああしもうた。茶瓶をひっくり返したがすまん、すまんというて女房(にょうぼう)がいうわいな。そしたら俺は、そんなところへ茶瓶があるのを知っとって片(かた)づけておかなかった俺が悪い。まぁ、火傷(やけど)をせんかってよかった。よかった。ごめん、ごめん。こういうて二人であやまる。
これがお前ん家だったら、二人ともいい者になりたがって、こんな所へ茶瓶を置いてどうするかぁ、というて怒(おこ)る。すると女房どんも、なぜ下を見て歩かんのよ、ちゅうじゃろが。それで喧嘩になるんだ」
「あぁ、そうか。俺が悪い、私が悪いと言うて悪者になりさえすれば喧嘩はないのか。阿呆になればいいんじゃなぁ」
「ほんとに、いいこと聞いたわ、今度から私が阿呆になればいいのね」
女房がこういうたら夫は、
「阿呆言わんか、俺が阿呆になるんじゃ」
「何言ってんのよ、私の方が阿呆よ」
「うるさい、俺の方がお前より阿呆じゃ」
と喧嘩になったと。
どっちの家が利口で、どっちの家が阿呆なんじゃろか。
むかしまっこう。
自分もよく親と言い争いになってしまうことがあるけど、もっと阿呆になって自分の非を認め、迷惑をかけないようにしていこうと思えるいい話でした。( 10代 / 男性 )
子供と一緒にきいていましたが、目から鱗のお話で、本当に勉強になりました。( 40代 / 女性 )
とても良いお話でした ありがとうございました 自粛中の家庭にぴったりですね
昔、ある山間(やまあい)に一軒(けん)の家があって、男と女房(にょうぼう)とは暮(く)らしていたと。 家の前の道、ときどき、猟師(りょうし)たちが猪(いのしし)だの熊(くま)だの獲物(えもの)を担(かつ)いで通ったと。
むかし、信濃(しなの)のある村の坂の上にポツンと一軒家(いっけんや)があり、ひとりの婆(ばば)さが住んでおった。 婆さは男衆(おとこし)が呑(の)む酒を一口呑んでみたくてしようがなかったと。
「利口と阿呆」のみんなの声
〜あなたの感想をお寄せください〜